第2話『アシスタント』
博士があの人と、親密な関係であることは知っている。
私がいつ知ったのか。
博士が用事を私に頼む事が多かったので、
つい気になって図書館に引き返した。
そしたらあの人と博士が仲睦まじく、肩を組んで談笑していた。
私とはそんな行為を一切しない人だったので、その関係性は察しがついた。
私はそれを見た時、何も考えられなかったが、嫉妬のような感情は浮かばなかった。
その代わり、ある疑問が浮かんだ。
何故私は選ばれなかったのか?
その疑問だけがぐるぐるぐるぐる、
頭の中で渦巻いていた。
そして、ある一つの答えに達した。
私は博士を愛していなかった。
...愛していたのだろうか?
どうしてこんな、くだらないことで私は悩まないといけないのか。
思い悩んだ挙げ句、湖畔にやって来た。
「好き...、嫌い...、好き...、嫌い...」
木の上からちぎった花びらが、水面に浮かぶ。
深い溜め息が出た。
「おっ、助手じゃないか。一人で珍しいな」
偶々、通りかかったヘラジカが上を向いて声を掛けた。よりによって、恋愛に疎そうな奴だ。
「そんな花持ってどうした?」
この人になにか相談しても良いものだろうか。
まあ、ダメ元で聞いてみても良いのかもしれない。
「自分が、本当に博士が好きなのかどうか、
気持ちがわからなくて」
「変な事で悩んでるなあ」
アハハという笑い声が聞こえた。
これは期待できないな。そう思った時だ。
「無理して好きにならなくてもいいんじゃないか?」
「はい...?」
「必ずしも誰かを好きにならなくてはいけない決まりなんてないだろ?」
意外と、全うな答えだ。
「私はライオンが嫌いだぞ」
「はあ...?」
「何て冗談だよ。良いライバルだ。
まあ、思い悩むんなら、色々な人に話を聞くことを薦めるよ、じゃあな」
そう言ってヘラジカはその場を去ってしまった。
「...なにも考えて無さそうな奴にアドバイスされるのは、気に食わないのです...」
手元の花を見ると、花びらが2枚残っている。
どちらが先か、忘れてしまった。
「...嫌い、....」
「アリツさぁん...、どうして先生は私に雑用ばかり押し付けるんですかね?
その隙に先生どこか行っちゃうし...」
布団に仰向けになり、ギロギロを読むアミメキリンがつまらなそうに言った。
「もっと構ってもらいたいんですか?」
「そうですよ。コソコソされるのはイヤなんです。アリツさんだって何か気分悪くないですか?」
「まあ...、仰りたい事はわかりますよ」
苦笑いして頷いた。
「アリツさんに押し付けるのも悪いし...、
私も時間があればいいんですけど」
「そうだ、私の友人に頼んでみましょうか。
丁度訳あって暇してるんですよ」
「なんでもいいですよ...。先生と一緒にいられる時間が欲しいんです。私は...」
朝を嫌がる子供の様に布団に顔を埋めた。
「...、先生の事が好きなんですか?」
ボソッと聞いてみたが、彼女の返答は得られなかった。
「...先生のこと少し探ってみましょうかね」
「探るって...、え?」
「だって私は名探偵ですよ?
向こうが何も言ってこなかったら、自ら真実を確かめるまでです」
アリツカゲラは深く溜め息を吐いた。
「その真実であなた自身が辛い思いをするかもしれないんですよ?それでも...、突き止めるんですか?」
アミメキリンは沈黙した後、口を開いた。
「先生がまるで他人と付き合ってる様な言い方ですね。心当たりでも?」
「いや、だから、仮の話ですよ...」
すると彼女は胸ポケットから透明な袋を取り出した。
「この白い髪の毛、先生のでしょうかねぇ。
鑑定出来ればいいんですけど...」
独り言のように呟いた。
「...アミメさん」
「私は、先生に憧れてるんです。
自分の中にある理想像を壊したくない。
そのために、真実を知りたいんです」
普段の彼女より、失礼ながら真面目に見えた。
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