第4話 テイマーへの道 

 日が変わり翌日。


「今日こそは……!」


 いざ受付へ。意気込んで行くが、今日に限って少し込み合っている。


「間が悪いな…しかし今日を逃すのは良くない…」


「はいはい押さないでください~。緊急依頼書は多めに用意してますので、きちんと並んでください~」


 ふむ…どうやらあの受付は依頼を受けるときも使うのか。しかし緊急依頼か。


「すまない。質問がある。ちょっといいか?」


 近くにいたガタイのいい男に話しかける


「お、お前は…!なんだよ、お前も受けるのか?緊急依頼」


 なぜか最初引かれたが聞けることは聞けそうだな。


「今来たばかりでな。緊急依頼の内容すら聞いていない。ということで教えてくれ」


「あー、そういうことか。今回の緊急依頼は討伐系でな。なんでも下水道にいる凶暴化したスライムを討伐してくれとのことだ」


 ……ほぅ…。


「まぁ新人育成も兼ねてだから報酬は雀の涙だが、緊急依頼を達成したってことで箔が付くんだよ。お前も暇があったら受けてみたらどうだ?」


「……生憎と未だ職に就いてないものでな。考えとく」


「就いてないってお前…。頑張れよ…」


 スライム。スライムだと?凶暴化だと?軟体魔物の一種。打撃の通りが悪く魔術の通りがいい。好戦的ではないが人間、動物、同種である魔物を取り込み、溶かす。動きは遅く、サイズはマチマチ。意識は薄く、本能で動く個体が多い。


「ちなみに何体だ?」


「そこまで聞いてはねえけど、新人も入るってことは最低一体、最大三体ぐらいか?それ以上多いと対処しきれなくて死んじまうやつが増えるからな」


 分裂個体はいないはず。昨日のスライムが無関係である可能性は低い。なら


「私も参加しよう」


「いやお前職に就いてないんじゃ……」


「なってくる」


 呆然とする男を置いて少し強引に列を進む。

「あ、また来たんですか…何度来てもあんな理由じゃ――」


「すまない。今度ばかりは理由が違う」


「はいぃ?」


「この緊急依頼に参加したい。ここでテイマーとして受けさせてもらえないのなら無理にでも参加する」


「イチャイチャしたいんじゃないんですか?」

「したい」

「そういう関係になりたいんですよね?」

「なりたいな」

「そういう理由では貢献に……」

「助けたいんだ」

 受付の女性が止まる。

「事情は言えない。言う気もない。だが、苦しんでいるやつがいる気がする」


「そんな曖昧な…テイマーは他の職業と違って規約が厳しいんです。嘘をつかないことは正しいですが、それを耳にしてる以上私は頷けません。私利私欲の為にモンスターや生物を従えることは禁止されています」


「理解している。理解した上で言っている。私をテイマーにさせろ。この緊急依頼をすぐ解決してやる」


 この言葉で受付の女性の目の色が変わる。


「どういう意味ですか?」


「言う気はない、と言ったぞ。だが私は今回の原因、もしくはその一端を知っている。だから今回は理由を懇切丁寧に説明しに来たのではない」


 テイマーになりにきたのだ。


「………しょうがありません。今回に限りテイマーとしての仮免許を発行します」


「助かる。手続きはすぐ終わるのか?」


「数分で終わるのでお待ちください。……では名前をここに……」


「エリィ・ハミルトンだ」


「ハミルトン…ハミルトン!?」


 その名はある業界には轟く名だろう。


「では失礼。無理を通してくれて感謝する」

 

 灰の瞳は既に別の場所を映している。だが、下水道の前に行く所がある。



「ふむ。ここに預けておいたが、店主はいるか」


「なんだ学者さん。今日は早いじゃないか」


 まだ準備中の札が立て掛けられてる酒場に知った顔で入っていくハミルトン。


「預けておいたカバンを使うときが来た。悪いが出してきて貰えるか?」


「あいよ」

 そう言うとカウンター下に手をやり大きめのゴツいカバンを取り出す。


「しっかし凄いカバンだな。中には何入ってんだ?」


「武器だよ武器。言ってもテーブルナイフみたいなものだがね」


「武器とはおっかないねぇ……まぁ気を付けて行ってきな。うちの娘助けてくれた借りはまだ返してないからな。また来いよ」


「ははは。気にしなくていいんだがね。でもありがたいことだ。また来るよ」


 パタン、と酒場の扉が閉まる。


「患者の不始末は私が付ける」


 カバンの中に入っていたのは膝下ぐらいまである黒い外套、ナイフ、小刀、何に使うか分からない筒、火の魔道具、針、コップ、糸、手拭いだった。


「ここだな……ここだよな?」

 しばらく待ってると


 クスクス…フフフ


「来たか」


 声のする道を歩いていく。少し早歩きで道を間違えないように――


「スライムの容態は?」


「遅かったわね。少し不味いことになったわ」


 雰囲気は似てるが二人を足して割ったような少女が一人。


「貴方が治してから暫くして、起き上がったと思ったら暴れだしたの。わたしじゃ止められないから、どうすることも……」


 変に手を出して怪我されるよりはマシだ。


「大丈夫だ。今度こそ私が治す。何か変わった点はあったか?」


「赤い腫れ物は消えてたし、特に異常は……あ!」


「あったか。それは?」


「大きくなってたわ。貴方が来たときよりも。あと苦しそうだった…」


 赤い鉱石による腫れ物以外に原因があった?いや三つの鉱石を取った時に異物感はなかった。まず、普通なら溶けてなくなる。

 溶けて………なくなる?なら物質が原因ではない。スライムに関する資料を頭から出せ………

 打撃による衝撃実験――――違う

 金属の性質差の吸収実験――違う

 有効な魔術の実験―――――違う

 切断による個体分裂実験――違う

 屍肉等の吸収性質実験―――違う

 膨張時の性質変化実験―――違…わない!

 これだこれだ。いやこれはでも……?

 膨張時、被験体の性質は魔術に著しく弱くなり体積の増加からか環境の影響を受けやすくなる。この場合火の属性では燃えやすくなり、水の属性では体積を更に増やす。これは有効な魔術の実験の時よりも反応が多く。この働きは上手くいけば若返りの―――


 ………これだな。つまり、あのスライムは元気いっぱいすぎて体を動かしてるだけか。


「原因がわかった」


「本当!?なら早く助けにいきましょ!」


 ここで言わないのは優しさだろうか。

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