第3話 テイマーへの道 

「ここよ…この下の道を歩くと死にかけてるわ」

 そう言うと下水道の中を先導するように入っていく

「どう?助けられるの?」


「症状を見てみないと分からん。案内しながらでいいから目立った症状と経過を教えてくれ」


 下水道に入り、件のスライムを探す。


「赤い斑点みたいなのが出てて……いつもよりも大きいの。あと変身が出来ないみたい。二日ぐらい前からかな……」


「なるほど…ふむ。どうにもならないと言ったが、医療行為、例えば治癒の魔術などは使ったのか?」


「治癒の魔術は使ったけど、使った時は落ち着いてくれるんだけどしばらくすると……苦しみ出して……」


「進化の前触れかと思ったが、そうではないか。大体は分かった。指示するから手伝ってくれるか」


「わかった」

「任せて!」


 二人の返事を聞き、下水道を進んでくと患者が見えてくる。


「あれか…」


 高さは男の腰ぐらい、色は汚く青紫色に染まりつつあり、赤い腫れ物のような物がボツボツと出てる。


「また酷くなってる……どう?」


「末期とは言えないが、初期段階でもないな。まず、聞くが――」


 スライムは人間の血が好物か?


「!?……う、うん。多分だけど……」

「そうか」


 そう言うと右手をスライムの赤い腫れ物に突っ込む。


「ぐぅっっ!」


 ジュゥ!と煙を出しつつ手を動かし中をまさぐる。


「斑点から、腫れ物になる。治癒の魔術が効くって言うんならまず患部の摘出、もしくは患部の中に問題がある……!」


 誰に言うでもなく、自分に言い聞かせるようにブツブツと続ける。


「フン!」

「うわぁ」


 赤い鉱石のようなものが不気味に手の中で光っている。これがスライムの中に入っていたのだ。


「アチチ。腕に治癒の魔術を頼む」

「う、うん」


 淡い光が下水道内を照らす。赤くなった腕が肌色に戻っていく。


「残りは……二つか……!治癒が使えない君はスライムに話しかけててくれ。人間と感覚は違うかもしれないが、同じかもしれない。生きる意思を与えてくれ」


「分かった!……これで痛いの治るよ…頑張って……!」


 よし。これでいい。


「では、続けよう」


 合計三つ。スライムから赤い鉱石を摘出してとりあえずは一段落した。


「私は元の姿を知らないが。どうだ、元に戻っているのか?」

 治癒が追い付かなかったのか爛れた場所が見え隠れする腕を気にせずスライムの経過を見る男。


「うん…元に戻りつつあるかな」

「治ったね~。良かった良かった」


 心配そうな顔をしているが二人とも緊迫した様子はない。


「ふむ…目を覚まさないが、ここで出来ることは出来たか。面白い事例だった。ありがとう。この鉱石はこちらで預かろう。起きたら拾い食いは程々にしとけと言っておけ。ではな」


 捲し立てるように言うと歩き出す男。


「ちょ、ちょっと待ちなさい」

「待って待って~?」


 慌てたように二人も付いてくる。


「どうした?一緒にいてやった方がいいぞ」


「その…ありがとう。助けてくれて」

「ありがとね~」

 

「気にしなくていい。出来ることをやっただけだ」


「それでもよ。呼び声の決まりとして呼んだ者の願いを叶えた人には願いを言う権利があるわ」


「ささ。願いをどうぞ」


 願い、か。これが詩人の言っていた願いの褒美というやつか。あのときはホラを吹いてると思ったがそうでもなかったのだな。


「ふむ…願いか。強いて言うなら君たちが欲しいな」

「!?」

「?」


 二者二様の表情。まぁ、これは無茶なことだ。まず私はテイマーですらない。


「フフ。出来んだろう?ならば権利を放――」

「―いいわよ」

「いいの?」


 ……自分で言っておいてなんだが本当にいいのか?


「意味はわかっているのか?テイムではない、これは非公式な契約だ。私の気分次第では…」


「その代わり、この子もテイムしてあげて」

 

 私の言葉を遮るようにスライムを指差す。

 ふむ。スライムにも事情があるようだ。


「残念ながらまだ私はテイマーではないんだ」


「……早くなりなさいよ」

「じゃあ元に戻ろうか?」


 元に…?


「私たちは二人で一人なのよ?呼ぶから明日また来なさい」


 そう言い指を鳴らすと


「元の場所…か」


 なんとなく記憶にある場所にポツンと立っていた。夢か現か、腕が痛むということは夢ではないのだろう。


「二種類のモンスターと出会えるとは豪華なサプライズもあったものだ」


 いつも通りの無感情な瞳に久しぶりに色がついた気がした。



番外


詩人の唄


ある日 一人の男が

我呼ぶ 声聞き訪れた

それは 夢か現か

呼び声 願いを告げたまえ

乞う者 いざ叶えん

願いを 告げる男よ

叶いし 我は思う

人と魔 差はなく

共に在り


詩「っていう唄を考えたんだけどどうかな?」


男「場所が場所なら石投げられてもおかしくないぞ…モンスター差別やお伽噺を嫌に思う人も多いだろうしな」


詩「君的にはどうだい?」


男「ふむ。悪くないな。現実に差はあるが、唄の中ぐらいは差などなく対等に出会いたいものだ」


詩「……本音は?」


男「私も呼ばれて魔の者の願いを叶えてやりたいね。そして願いで……フフフ」


詩「…安心したよ」

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