キートンさんが気にかけた人。

「立夏ちゃん、ごめんなさい!」


絵美ちゃんがあたしに謝る。


よかった! きっと絵美ちゃん、正気に戻ったんだ。


でもなんで絵美ちゃんが謝るの?


「私、まじょになった立夏ちゃんが羨ましくて。寂しくて」


それで、と絵美ちゃんは言葉を続ける。


「立夏ちゃんがまじょになんかならなきゃよかったと思ったときに」


キヨセさんに頼んだの。


立夏ちゃんのまじょの道具。


それから、まじょになってからの関係をリセットしてほしいって。


やっぱり、あたしがまじょじゃなくなった時のことは、キヨセさんの仕業だった。


「あたしの方こそ、ごめんなさい」


あたしは謝る。


「絵美ちゃんの気持ちに気づいてあげられなくてごめんなさい」


お互いに謝りあったあと、仲直りの握手。


これでもう、お互いに恨みっこなしだね。


キヨセさんを見ると、唖然としてる。


そりゃそうだよね、自信のあった黒まじゅつを破られたんだから。


それも、自分が嫌ってるまじょの弟子なんかに。


あたしは、キヨセさんに言った。


「あなたが黒まじゅつをかけたもう一人の女の子のまほうも、解いちゃうから」


きっと、高園寺さんにまじょの弟子になってもらって。


それからありさちゃんと話をしてもらえれば。


ありさちゃんが溜め込んでいた悩みを聞いてあげれば、解決する。


あたしは、そう思ったから。


そしてその方法は成功するって自信があったから。


キヨセさんにそう宣言したんだ。


すると、キヨセさんは、ぽつりと言った。


どうしてなの、と。


キヨセさんは、体を丸めて小さくなってしまった。


さっきまでの人生を自信にみちあふれた姿とは大違い。


「なんで。こっちの周りには、一度だってそんな人、いなかった!」


体からしぼり出すように声を発するキヨセさん。


そんな人って?


あたしが聞き返す前に、黒原くんが言った。


「あなたが、じいちゃんが最期まで気にかけていた人だったんだ」


それを聞いて、キヨセさんがうつむいていた顔をあげる。


その頰は、透明な液体で濡れていた。


「じいちゃん、言ってたよ。こっちの世界で弟子にした、ある子が心配だって」


黒原くんは、遠い目をして続ける。


「その人は、こっちの世界でいじめにあって保健室にこもってたんだって」


ぴくんとキヨセさんの肩がはねる。


「誰も自分を助けてくれなかった。だから、こんな場所とはおさらばだ」


そう言って、じいちゃんの弟子になったんだって。


「でも弟子たちの中にもうまくとけこめなくて。黒まじゅつに手を出したって」


黒原くんは、キヨセさんを見つめて言う。


「じいちゃん、言ってた。あの子は人の痛みがわかる子だ。だから」


だからあの子は、いつかきっと黒まじゅつ抜きで、よいまじょになるよ。


その様子を見届けられないのが残念だよ。


「そう言ってました」


そこまで聞き届けると、キヨセさんはすっと姿を消した。


きっと、今までの行動を反省して、よいまじょになってくれる。


そしてよいまじょになったら。


またきっと、この店に、キサラおばさんのいるこの場所に、帰ってくる。


なぜか、あたしにはそう思えたんだ。

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