黒まじゅつを打ち破るもの

絶対に、絵美ちゃんを取り戻して、今まで通りの関係を続けるんだ。


そのためになんとしても、キヨセさんの黒まじゅつを打ち破らないと。


その時。あたしの杖が飛び出して、あたしの手の中に収まった。


なんだか、いつもと違って、杖は淡い光に包まれている。


キヨセさんは鼻で笑う。


「杖でどうにかできるもんじゃないのよ。このまほうは」


キヨセさんの手元にはいつのまにか、一冊の分厚い本が握られてたの。


その本を見て、黒原くんが叫ぶ。


「あ、あれはじいちゃんの部屋にあった黒まじゅつの本! どこで……」


「キートンのじいさんが亡くなってすぐ、こっちで引き取らせてもらった」


黒まじゅつの本は、こっちにこそふさわしい。


キヨセさんが得意げに言い、黒原くんと言い争いを始めた。


唖然としているあたしのとなりに、星谷くんがそっとやってきて。


「今がチャンスや、元気マン。石口にかかった黒まじゅつを解くんや」


そんな簡単そうに言われても。


そう思いながらあたしは、絵美ちゃんに近づく。


絵美ちゃんは少しずつ後退する。


そこであたしは、さっと走って一気に距離を詰めた。


距離を詰めてそのあとどうするかなんて、全く考えてなかったけど。


そのあとすべきことは、杖が教えてくれた。


淡い光に包まれて、形がわからなくなっていた杖。


それが、絵美ちゃんの方へ一気に距離を詰めた瞬間変わったの。


眩しい光に包まれた鍵の姿に。


あたしは無意識に、鍵の形になった杖を、絵美ちゃんの胸に突きつけた。


すると、杖は半分ほど絵美ちゃんの胸に吸い込まれる。


え?え? 刺さってる!? どうしよう、絵美ちゃんを刺しちゃった。


そう思って持っていた杖を落としかけるあたし。


けれどそれとほぼ同時に、杖から声が漏れ出てきたの。


『どうして、まじょになったこと言ってくれなかったの』


急に声が聞こえてきたから、あたしはびっくりする。


『急に話しかけてくれることも少なくなって、寂しかった』


声は、絵美ちゃんの声とよく似てる。


でも、本人は暗い表情をしたままで、口を開かない。


まさか、これって。絵美ちゃんの心の声ってこと?


あたし、思わず杖から聞こえる言葉に耳をすませる。


『新しいお友達ができて、私のことなんかどうでもよくなっちゃったの?』


「そんなことないよっ」


ついあたしは叫んでしまった。


キクコおばさんが、そのまま続けてと言う声が聞こえた。


あたしはその言葉に背中を押されて言葉を続ける。


「どうでもよくなったわけじゃない。いつか話そうと思ってた」


でも、とあたしは続ける。


「色んなことが次々に起こったから。だから……」


絵美ちゃんが寂しがってるのに気づいてあげられなかった。


そう告げたあたしを見つめる絵美ちゃんの目は、うつろだ。


「気づいてあげられなくて、ごめんなさい」


あたしが言うと、一瞬絵美ちゃんの顔に表情が戻った気がした。


きっと、もう一踏ん張りだ。


あたしは、今の気持ちを正直に言葉にする。


「絵美ちゃんがいなくなって、あなたの存在の大きさに気づいたの」


あたしが言葉を紡ぐたび、絵美ちゃんの目に光が戻ってくる。


「勝手な話だけど、あたしには絵美ちゃんが必要なんだ」


そこまで言葉を紡いだら。


風が強い日の窓から聞こえるような、ガタガタと言う音が聞こえ始める。


「だから、これからも友達でいてくれないかなっ」


そうあたしが言い終わった瞬間、ガラスが割れるような音が、響いたの。





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