問題解決に向けて
キサラおばさんとキヨセさんの過去
キヨセさんは、あたしの方へ歩き始めようとする。
「あの時から一切、弟子をとろうとしなくなったあなたが弟子をとった」
それは自分の後継がほしいと思ったからだけではないでしょ。
そう言いながら、キヨセさんがあたしに近づこうとした。
それを、キサラおばさんが先にあたしの方に回り込んで阻止する。
あたしのことを自分の背中に隠すキサラおばさんを見て、キヨセさんが笑う。
なんだかとっても、意地悪な笑い方だ。
あたし、背筋が寒くなる。
「なるほど、それだけ大事な弟子ってわけか」
キヨセさんは、あたしに向かって突然言う。
「キサラが子ども嫌いな理由、知ってる?」
そういえば、あたしが初めてお店に行った時。
子どもは嫌いだって言ってた気がする。
「この人の最後の弟子、こっちが奪っちゃってね」
え? それって。
キサラおばさんの弟子だった人が、キヨセさんの弟子になったってこと?
そんなことがどうして……。
キヨセさんは言った。
「この人ね、キートンのヤツに一番気に入られてたのさ」
「じいちゃんのことを、呼び捨てにするなっ」
黒原くんが声をあげるけど、キヨセさんはまったく気にしてない。
「まほうの腕も、まじょとしてのプライドも、こっちの方が上だってのに」
キヨセさんが、イライラした口調で続ける。
「どうしたらキサラを出し抜けるか、考え続けた。そしたら」
「ふつうの人が学ばない黒まじゅつなら、勝てるって気づいたのよ」
キヨセさんが、にやりと笑う。
「それでまじゅつを使って弟子をこっちのものにしたの。でもね」
キヨセさんが、悲劇のヒロインのように崩れ落ちながら言うの。
「一度キサラを困らせただけではつまらなくて。だからここへ来たの」
それって、つまり。
キサラおばさんに新しい弟子ができたのを知って。
キサラおばさんや弟子のあたしを困らせてやろうと思って。
それで、絵美ちゃんやありさちゃんたちに近づいたってこと? ひどい。
あたしは、黒まじゅつのことはよく分からない。
「黒原くん、黒まじゅつって、どんなまほうがあるの?」
あたしが黒原くんを振り返って尋ねる。
黒原くんは、困った顔をして、眼鏡を押し上げる。
「使い方を間違えば、人の人生を狂わせるようなものばかりだ」
そう言ってから、独り言のように言う。
「じいちゃんがどうして、黒まじゅつの本は触るなって言ったかわかったよ」
黒原くんは、キヨセさんの方に向き直ると言う。
「大人でも使い方を誤るようなものだ、オレたちが触れていいわけがない」
黒原くんはきっぱり言って、あたしに言う。
「石口は、黒まじゅつで本当の自分を見失ってる。お前なら元に戻せる」
あたしが? どうして?
あたしが聞くより前に、キサラおばさんが答えてくれる。
「黒まじゅつは、相手の心に深く入り込むまほうさ。でもね」
キサラおばさんは、あたしの目を見つめて言う。
「時間をかけて積み重ねられた関係の前では、役に立たないのさ」
なんとなく、キサラおばさんの言っていることは理解できる。
つい最近、キサラおばさんやあたしを困らせてやろうと近づいたキヨセさんと。
そんな悪だくみのためじゃなくてただ純粋に、友達として過ごしてきた、あたし。
今まで絵美ちゃんと紡いできた関係を、こんな人に終わらせたりしない。
あたしが、絶対に絵美ちゃんを取り戻してみせる!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます