思い出のホットケーキ

「前にうちに来た時、おいしそうに食べてくれたわよね」


とっても嬉しかったから、よく覚えてるの。


そういうと、おばあさんはうふふ、と笑った。


テーブルへお皿を並べようとするおばあさんに、あたしは聞く。


「おばあちゃん。最近絵美ちゃん、学校に来てないんです」


おばあちゃんは、それを聞いて大きくため息をついたの。


「やっぱり。最近元気がないと思ってたのよ」


どこか、納得したような表情を浮かべるおばあちゃん。


そして、あたしに椅子をすすめながら聞いてくる。


「立夏ちゃんも、なんだか元気がないわねぇ」


よかったら、このババに話してみなさい。


絵美ちゃんのおばあちゃんの言葉が心地よく心に反響する。


ああ、この人になら話しても大丈夫。


なんとなく、あたしはそう思って。


ホットケーキを食べながら少しずつ、今までのことを話したんだ。


キサラおばさんと出会って、まじょになったこと。


黒内くんや星谷くんというまじょ仲間ができたこと。


高園寺さんたちと出会えたこと。


そして、まじょとして成長はしたかもしれないけど。


絵美ちゃんという大切な友達を失いかけていること。


絵美ちゃんが知らないおばさんと歩いてたこと。


まじょになって得た関係や道具を失ったこと。


洗いざらい話した。


一言話せば、あとは勝手に言葉がついてきた。


おばあちゃんは、時々あたしに飲み物のおかわりを注ぎながら。


あたしが話し終えるまで熱心に聞いてくれた。


冗談でしょ、と笑われると思ったけど。


おばあちゃんのとった行動は、全く別のものだった。


「立夏ちゃんは、絵美と仲直りしたいって思ってくれてるんだね?」


念を押すように聞かれる。


あたしは、強く頷いた。


あたしの反応を見て、おばあちゃんは何かを決心したみたい。


よいしょ、と立ち上がると、おばあちゃんは朗らかに言った。


「さてと。それじゃあまずは、まほうを取り返しに行こうかねえ」


「まほうを、取り返す?」


あたしが聞き返しながらおばあちゃんを見る。


あたしは、おばあちゃんを見て驚いた。


おばあちゃんの手には、しっかりと一本の杖が握られていたの。


あたしが驚きすぎて声を出せずにいると、おばあちゃんは優しく言う。


「立夏ちゃんが正直に話してくれたからねぇ。ババも協力できるってもんさ」


おばあちゃんは言って、杖を一振り。


すると。


さっきまでホットケーキが載っていた、あたしとおばあちゃんのお皿がふわり。


キッチンの方へ飛んでいく。少ししてから、水が流れてくる音もしてくる。


まさか、絵美ちゃんのおばあちゃんも、まじょだったなんて!








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る