絵美ちゃんの家へ

あたしは、絵美ちゃんの家へ走った。


明日じゃダメだ、今日言わないと。


少しでも、一秒でも早く。


あたしは、走った。


絵美ちゃんの家にたどり着いた。


あたしは、強くインターホンを押す。


どこから切り出そう。


具体的なことは、一切考えてない。


また前みたいに、絵美ちゃんを前にしたら言葉を失うかもしれない。


言葉が、頭の中でぐちゃぐちゃになってしまうかもしれない。


それでも。前のあたしとは、違う。


本当のことを話すべきか悩んでたあたしは、もういない。


伝えたいことを、伝えればいい。


言葉がぐちゃぐちゃになっても構わない。


絵美ちゃんの家の前を行ったり来たりしながら、あたしは考える。


しばらく待ってみたけど、インターホンから返事はない。


あたしは、もう一度だけインターホンを押してみた。


すると、少し間を置いて、声が聞こえてきた。


「あらあらどなた? 今はババ一人ですよ」


ああ、絵美ちゃんのおばあちゃんだ。


前に一度、ホットケーキをご馳走になったことがあるんだ。


あたしが家の中に鍵を忘れた日。


お母さんの仕事が終わるまで、ここにいたらいいよ。


そう言って、おばあちゃんは、ホットケーキを焼いてくれた。


あたし、おやつにホットケーキを食べさせてもらったことなんてなかったから。


その時、絵美ちゃんがすごくうらやましいって思ったことを覚えてる。


「絵美ちゃんの友達の、鳴川立夏です。絵美ちゃんの居場所知りませんか」


あたしはインターホンに顔を近づけながら聞く。


「あら、立夏ちゃん? 久しぶりねぇ、元気にしてた?」


おばあちゃんの、どこか和やかな話し方が。


今のあたしの心に優しく響く。


「絵美は、どこかに出かけたっきり帰ってないわねぇ」


そのうち帰ってくるでしょうし、せっかくだから上がっていきなさいな。


おばあちゃんの言葉に、あたしは甘えることにする。


招かれるままにリビングにお邪魔した、あたし。


ちょっと待っててね。


おばあちゃんはあたしを案内するとすぐに、キッチンに消えてしまった。


あたしは、リビングを見渡す。


綺麗に片付けられた部屋では、乱暴に投げ置かれたランドセルが目を引く。


あれ、ランドセル?


絵美ちゃん、ここ数日は学校に来てないはず。


なのに、なんで。


「おまたせ、ホットケーキを焼いてみたんだけど、食べない?」


あの日と同じ優しい声音と笑顔で、絵美ちゃんのおばあちゃんが見つめていた。





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