まじょじゃ、ない
杖も、小瓶もなくなってしまったことを二人に話そう。
あたしはそう思ったの。
先に教室に入ってきたのは、黒原くんだった。
「おはよう、黒原くん」
あたしがいつも通りに声をかけたら。
黒原くんは、とても暗い顔であたしを見つめ返してきたの。
あれ、これって、あたしがまじょになる前の黒原くんの態度だ。
あたしが首をかしげてるところへ、星谷くんがやってくる。
「元気マン、元気あらへんなー」
「星谷くん、あたし、まじょじゃなくなっちゃった!」
あたしが言うと星谷くんは、変な目であたしを見た。
「まじょ? 何の話してるんや、元気マン。アニメの見すぎか?」
あははと言いながら去っていく、星谷くん。
杖もないし、まほうせきもない。
星谷くんと黒原くんは、まじょとしての生活のことを忘れてる。
どうなってるの、本当に全部、なかったことになってるの!?
いや、昨日と変わらないことが、一つだけある。
絵美ちゃんだ。
まじょじゃなくなったのに、絵美ちゃんは、いないままだ。
結局その日も、絵美ちゃんは学校に来なかった。
あたしは学校が終わると、すぐに校門を出た。
キサラおばさんに伝えないと!
そう思ったけど。
どんなに願っても、キサラおばさんの店への行き方が思い出せない。
あたしは、道の途中で立ち止まった。
あたし、どうしたらいいの。
まじょじゃ、なくなっちゃったし。
でも絵美ちゃんとの関係は、壊れたままだし。
このままじゃ、全部だめになっちゃう。
あたしの頬を、自然と涙が零れ落ちた。
泣いたって、何も変わらない。
そんなことは、分かってるのに。
拳を強く握って、涙をこらえようとしていたその時。
後ろから、声がかかった。
「あら、鳴川さん? どうしたんですか」
そこに立っていたのは、高園寺京歌ちゃんだった。
そう、あの時問題が無事解決したら、まじょにスカウトさせてね。
そう伝えていた彼女が、目の前に立っていたの。
あたしの目を見て、高園寺さんは驚いた顔をする。
「どうしたんですか。もしかして、わたくしのせいで……?」
その言い方が少し気になって、あたしは聞いてみる。
「高園寺さん、あたし、あなたに、まじょの話、したっけ」
彼女があたしにとっての最後の頼みの綱だった。
すると。
高園寺さんは、にっこり笑って言ってくれた。
「もちろん、覚えてますよ。問題を解決したら、スカウトしてくれるんでしょう」
その言葉を聞いた途端。
彼女のフリルのついたワンピースにすがりつくような形で崩れ落ちたの。
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