クビになった、星谷くん

「え、どうしてクビなんか……」


 言いかけてあたし、はっとする。


 もしかして、星谷くんの性格が悪いから……。


 あたしが一人で納得して黙ろうとすると、星谷くんは苦笑した。


「あのなぁ、言っとくけど、おれの性格が悪いからやないで」


「え、違うの?」


 あたしったら正直だから、ついそのまま言葉が出ちゃう。


 あたしの言葉を聞いて、ますます星谷くんは、苦笑。


「違う、違う」


 それから急に、真剣な顔になって言う。


「おれが、男やからや」


 それを聞いて、黒原くんが口をはさむ。


「え? でも最近はそういう、性別関係なく迎え入れられるようになったって」


 キサラおばさんは確かにそう言ってたな。


 黒原くんの言葉を聞きながら、あたしも頷いていた。


 すると、星谷くんは前髪をかきあげる。


「そうらしいな。けど、おれのとこのまじょさんは、考えが古いらしい」


 まじょ全体としては、性別関係なく迎え入れようって話になったけど。


 それでも、どんな弟子をとるかは、それぞれのまじょに任せられてる。


 だから、まじょによっては、ルールを決めてるまじょもいるってことね。


「おれは、まじょじゃなく、杖に選ばれたんや」


 星谷くんはすごいやろ、と得意顔になって杖との出会いを話してくれた。


♢♦


 星谷くんはいつも通り、帰り道を歩いていたんだって。


 どうやったら、好きなサッカーがもっとうまくなるのか、考えながら。


 そしたら、いつの間にか、いつもとは違う路地にいたんだって。


 路地は真っ暗で、霧がうずまいていたけど、一軒だけ明かりがついていた。


 それは、何軒か並んでいる家のうちの一つの、倉庫の明かりだった。


 星谷くんが、その光に誘われてそっと、近寄ると。


 半開きだった扉がすっと、開いたんだって。


 「おれが中に入ると、まず小さな箱が目に入ったんや」


 その箱を開けると、杖が飛び出してきて、星谷くんの頭上を嬉しそうに回った。


 「おれは何が何やらわからんかった。その時、物音がして、まじょが現れたんや」


 まじょは、星谷くんを見て、とても喜んだらしい。


『待ちに待った、まほうを使いたい、女の子が来た』って。


「ちょっと待ってよ、星谷くんは男の子でしょ」


「そうや?」


 なんで今更そんなことを聞くんや。その顔は、そう言ってる。


「どうして、女の子に間違われたの」


 あたしの言葉に、星谷くんの杖がぴょこぴょことはねる。 


「ああ、それな」


 星谷くんが納得したように頷く。そして、言った。


「杖は、おれという持ち主がほしかった。だから、おれの性別を変えた」


 性別を変えた!?


 さらっと言った星谷くんの言葉に、黒原くんを見た。


 黒原くんは、ぎょっとした顔をして、自分の杖を引っ張り出す。


 黒原くんの杖は、そんなことしないって言ってるみたいに横に揺れる。


「あ、もちろん見た目だけの話や。カツラを載せただけな」


 星谷くんが慌ててつけたすのを聞いて、あたしは安心した。


 なんだ、それだけのことか。


「まじょは、こちらの世界の人間が苦手やねんて。だから弟子も女がよかったんや」


 でも杖は、まじょの気持ちを知りながら、星谷くんを選んだ。


 星谷くんは、とりあえずばれるまでは、と思って女のフリをしてたんだって。


「けどな。割とすぐ、ばれてしもてん」


 星谷くんは残念そうに言う。


「けど、弟子をクビにしても、杖を取り上げる権利はあらへん」


 え? そうなの?


 だって、杖があったら、まほう使えるじゃない。


 それじゃあ、弟子をクビになっても、そんなに困らないんじゃないの。


 あたしが首をひねっていると、星谷くんが教えてくれる。


「たしかに、杖があったら、まほう自体は使える」


 それじゃあ、そんなに困ることは……。


「けどな、おれはまだあくまで半人前のまじょや」


 まだまじょの弟子になって、そんなに経ってないって言ってたもんね。


「半人前のまじょは、必ずプロのまじょの下についていなきゃならんのや」


 あたしたち子どもの行動に、保護者の許可が必要な感じかな。


「だからまじょの弟子を見つけて、おれもその弟子にしてもらおうって思ったんや」


 それで、あたしにまじょのことを知ってるか聞いてきたのね。


「それじゃ、あたしが選ばれるタイプに見えないっていうのは失礼じゃない」


 あたしがまじょに選ばれそうなタイプじゃないってことでしょ。


 それを聞いて、星谷くんは少し申し訳なさそうな顔をした。


「あれ、聞こえてた? ひとりごとののつもりやったわ」


 はい、ひとりごとは小さな声で言いましょう。


 あたしがむうっと頬をふくらませていると。


 星谷くん、あたしにむかって、顔の前で両手を合わせて頼み込んでくる。


「鳴川、黒原。そういうことだから、お前たちのまじょに会わせてくれないか」


 あー、こういう時だけ名前を呼ぶなんて、ひきょうだよー!!

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