星谷くん、交渉開始
あたしたちがキサラおばさんのお店に戻ってみると。
キサラおばさんが当たり前のように、ロッキングチェアに座ってた。
そして、あたしたちの後ろに星谷くんがいるのを見て、顔をしかめる。
「立夏。まさかとは思うけど……」
「あ、あなたがキサラさんですか!? おれ、星谷理って言います」
あたしが答えるより先に、星谷くんが前に進み出てキサラおばさんにあいさつ。
「おれ、キクコさんのところでまじょの弟子をしてたんですが……」
「キクコだって!?」
キサラおばさんは、ロッキングチェアからずり落ちそうになる。
それから、ロッキングチェアに埋もれるように沈み込みながら、文句を言う。
「まじょの弟子をとったら、なんで昔の弟子仲間の話が絡んでくるんだい……」
アタシは、平凡に暮らしたいのにさ。
キサラおばさんが大きくため息をつく。
「キクコさんって……」
「前のキヨセと同じ。アタシがキートンのジイサンの弟子だったころの弟子仲間さ」
とはいえ、とキサラおばさんはロッキングチェアから体を起こして言う。
「キヨセよりは、扱いやすい相手ではあるね」
それから、不思議そうに星谷くんを見る。
「それで? キクコから何かを頼まれてここへ来たのかい?」
「いえ、違います」
なんだい、違うのかい。
キサラおばさんが悪態をつく。
「それじゃあ、なぜここへ来たんだい」
「キクコさんのところをクビになったんです」
それを聞いて、一瞬キサラおばさんの動きが止まった。
それから、大声で笑いだした。
「クビになったぁ!? そりゃあ面白い、何をやらかしたんだい」
「性別をいつわってました」
星谷くんが居心地悪そうに言うと、キサラおばさんが笑うのをやめた。
そして、考え込むような表情になる。
「そういえばアイツは……、こっちの世界の男が苦手だっけねぇ」
「キクコさんも、そう言ってました」
なぜだかは、知りませんけど。
星谷くんは、うつむいてしまう。
「それで? アンタはまじょを続けたいのかい」
キサラおばさんの問いに、星谷くんが驚いて顔を上げた。
「続けたい、です……」
それを聞いて、キサラおばさんはまた大きなため息をついた。
「それじゃ、仕方ないねぇ……」
そして、あたしや黒原くんも見ながら言う。
「別のまじょの弟子になるには、前のまじょの承認が必要だ」
「キクコさんの、許可ですね……」
あたしが言うと、キサラおばさんが頷く。
「アイツに承認されなきゃ、別のまじょのところにつくこともできないのさ」
「おれ、キクコさんに聞いてきますっ」
星谷くんがばっと、店の出入り口の方へ走りかけた時。
「その必要は、ありませんわね」
知らない声が響いた。
驚いてあたしや黒原くんが振り返ると、そこには見知らぬ女性が立っていたの。
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