当たり前、のこわさ

 当たり前って、すっごい怖いことだと思う。

 

 当たり前って言葉は、いろんなところに潜んでる。


 最初は感謝していたことが、「当たり前」になって。


 「してもらって当たり前」になって。


 その「当たり前」が「当たり前」じゃなくなった時。


 人は、とーっても怒るんだ。


 あたしは、その一つの例を知ってる。


 小さいころのあたしの話。


 あたしはおじいちゃんが遊びに来ると、買い物に行きたがった。


 そして連れてきてもらうと、いつもお菓子売り場に走って行った。


 なぜって? おじいちゃんが、好きなお菓子を買ってくれるから。


「ほしいものがあるなら、買ってあげるよ」


 そう言ってもらえるのがとっても嬉しくて。


 買ったものをその小さな胸に抱えて、気持ちをこめてお礼を言ってた。


 でも、ある時。


「今日はおじいちゃんにお菓子買ってもらっちゃだめ」


 お母さんがそう言ったとき、あたしはすっごく怒った。


 おじいちゃんが来ることは、数日前から知ってた。


 だから、その日、あたしは既に買ってもらうお菓子を選んでたんだ。


 まだ、おじいちゃんが来てもいないのに。


「ほしいものがあるなら、買ってあげるよ」


 そう、言われてもいないのに。


 お母さんに言われたとき。気づいてしまったんだ。


 いつの間にか、月日を重ねるうちに。


 おじいちゃんにお菓子を買ってもらうことが、「当たり前」になってたんだ。


 おじいちゃんに何かを買ってもらうたび、ちゃんとお礼は言ってた。


 でもいつの間にか、そのお礼の言葉さえも、仕方なく言ってた気がする。


 あたしはその時、当たり前の恐ろしさを知ったんだ。


 きっと、高園寺さんを取り巻く女子たちも、あの時のあたしと同じなんだ。


 最初はきっと、高園寺さんに感謝してたと思う。


 素敵なおまじない、教えてくれてありがとう。


 そして、色々悩みながら、たーくさん試したんだと思う。


 一人一人そういった物語が、きっとあったんだ。


 でも。


 おまじないを何度も教えてもらっているうちに。


 それが、「当たり前」になってしまった。


 だから、自分が必要としている時に教えてくれて「当たり前」。


 おまじないが外れたら、新しいおまじないを教えるのが「当たり前」。


 ちゃんと願いの叶うおまじないを教えるのが「当たり前」。


 そんな風に、考え方が変わってしまったんじゃないかな。


 あたしがそう、思ったことを口にする。


 そしたら、他の三人は何か考え込むように黙ってしまった。


 あたし、変なこと言っちゃったかな。


 少しして、黒原くんがゆっくりと口を開いた。


「……なるほど。一理あるかもしれない」


 そして、みんなを見回して独り言のように言う。


「でも、だからってそういうことをしていいってことにはならない」


「そうだね」


 あたしが相槌を打つ。


「本来おまじないっていうのは、どれだけ強く願っているかが大事だと思う」


 黒原くんは、強い口調で言った。


 どれだけ強く、その願いを叶えたいと思っているか。


 もちろん、それだけで願い事がかなうなら、誰も苦労しないと思う。


 でも。一つだけ言える。


 願いを叶えたい。そう思うのなら。


 まずは、人に頼らずに自分で考えて行動するべきだと思う。


 あ、別に人に相談しちゃだめってわけじゃなくて。


 自分が叶えたい願いがどんなことで、どのくらい叶えたいのか。


 それによって、叶える方法はいっぱいあるんじゃないかって思うんだ。


「おまじないは、最後の頼みの綱、みたいなものだと思うのですわ」


 遠野さんは、ティーカップを持ったまま遠い目をする。


「京歌さんは、いっぱい悩んで、悩んだ末にたどり着いた答えがまじないでした」


 でも彼女たちはそうじゃありませんわ、遠野さんは顔をしかめる。


 困った時の神頼みだってことなら、神社に行けばいい。


 好きな人と両想いになりたい、そう思ったら。


 その相手をよく「知ろう」とすればいい。


 おまじないは、いっぱい努力した後に、おまけとして願うもののはずで。


 おまじないの前にするべきことが、きっとあるはず。


 自分の足で、自分の行動で、するべきことが。


 うん。このままじゃ、高園寺さんのためにも、女子たちのためにもならない。


 努力せずに、何かが叶うことなんて、ほとんどないんだから。


 なんとしても、ここで終わらせなくっちゃ!




 





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