まじないを始めたきっかけ

「高園寺さんは、なんでまじない屋さん始めたの」


 あたし、高園寺さんとお話してからずっと疑問に思っていた。


 どうして、まじない屋さんを始めたんだろうって。


 自分でまじないの本を読んで自分のために使うのは、分かる。


 でも、彼女は違う。


 他人のために、それも友達でもない人にまで、まじないを教えてあげてる。


 あたしだったら絶対そんなこと、しなかったと思う。


 だから気になったの。


 なぜ、高園寺さんが人のためになぜ、そこまでしてあげようと思ったのか。


「それは……」


 黒原くんが、言葉をにごす。その言葉を継いで、高園寺さんが小さく言う。


「最初は、お母さんのため、でした」


 お母さんのため。


「毎日忙しく働いているお母さんのために、何かできないかと思って」


 それで行きついたのが、おまじないだったんだ。


「わたくしは、おまじない本を読み漁りました。そして試しました」


 開運のおまじない。人間関係安定のおまじない。


 お母さんの役に立ちそうなおまじないは、かたっぱしから試した。


 毎日疲れて帰ってくる、高園寺さんのお母さんのため。


 彼女もまた、必死で頑張ったんだ。


「おまじないが役に立ったかは、分かりません。ですが」


 お母さんは、笑顔で言ってくれたそうだ。ありがとうって。


「わたくし、それが嬉しくて。もっと、人の役に立ちたいと思ったんです」


 お母さんの次は、自分の一番のお友達のために。


 けんかしてしまったそのお友達と仲直りするために使ったんだって。


 おまじないがうまくいって仲直りができたから、その子にまじないの話をした。


 おまじないでお母さんが喜んでくれて、自分たちも仲直りさせてくれたと。


 もっともっとたくさんの人を喜ばせたい。


 そう言った高園寺さんに、お友達はこう言ったんだって。


『それなら、おまじない屋さんをすればいいんじゃないかしら』


 それを聞いて、高園寺さんは身近な人に色んなおまじないを教えた。


 そしたら、それがどんどん噂で広がって、今のような状態になったと。


 そこまで話してうつむいてしまう、高園寺さん。


 なんだか、あたしまで悲しくなってきちゃった。


 どうして、人の好意が、こんな形でゆがんでしまうんだろう。


 その時、あたしたちの後ろから声が聞こえてきた。


「こんなところにまで!? さっさと帰るのですわっ」


 後ろに立っていたのは、別のクラスの女の子だった。

 







 


 

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