おまじない屋さんだって、休みたい

 高園寺さん、大きなため息をついて何か悩んでるみたい。


 あたしたちがすぐそばにいるのに、まるで気づいてない。


「高園寺さん、もしかして何か困ってる?」


 あたし、恐る恐る声をかけた。


 すると高園寺さん、飛び上がってびっくりする。


「あ、ごめん。驚かしちゃったね」


 あたしが謝ると、高園寺さんは胸をさする。


「だ、大丈夫ですよ……。でも、少しだけ、びっくりしました」


 高園寺さん、自分の家を振り返りながら言う。


「困っている、といえば困っています……」


 だよね。そして、困っている内容も、なんとなく、分かる。


「ここへ来る途中、わたくしの家に集まる女子の群れを見ましたか」


「うん」


 あたしが頷くと、高園寺さんは困った顔で笑う。


「これが、毎日続いているのです。学校ではとてもすべての人の話を聞けないので」


 学校でおまじないを聞けなかった人たちが、家まで押し寄せてるってワケね。


「わたくしが始めたことですから、わたくしはいいんですけれど……」


 ご近所さんに、迷惑がかかってしまって、と高園寺さん。


「ご近所さんですから、黒原くんは、よくご存知ですよね」


 黒原くんを見上げて、高園寺さんは聞く。


「ああ」


 黒原くんは、居心地悪そうに頷く。


 そしてあたしを振り返って言う。


「毎日毎日たくさんの女子がここへ押し寄せる。宅急便が来ても、どかない」


 それは、お仕事妨害だね。


「まじない予約の手紙で、ポストがいっぱいになる」


 郵便屋さんの、お仕事妨害。


「家の前で、でかい声で話しまくる」


 ご近所迷惑。


「夜になっても、大声で自分と好きな人の相性を占えと叫ぶ」


 高園寺さんの家族との時間、および業務(宿題)妨害。


「おまじないが効かなかったら、また新しいのを教えろと聞いてくる」


 それで、おまじないを聞きたい人が減らないのか。


「さらに悪いのはおまじないが効かなかったら、いやがらせをしてくるやつもいる」


 なにそれ、サイッテー! 


「おまじないは、必ず効くわけではないと、ちゃんと説明しているんですけれどね」


 高園寺さん、悲しそうにつぶやく。


 許せない、人を頼っといて、うまくいかなかったら八つ当たりなんて。


 まじないだもん、ぜったい叶うわけじゃないって、あたしでも分かる。


「そんなことばっかり起きるなら、やめちゃえばいいじゃない」


 あたしが言うと、高園寺さんは首を横に振る。


「わたくしが始めたことですから、今日でやめますとは、なかなか……」


 それでも。こんな悲しそうな高園寺さん、ほっておけない。


 なんとかしてあげたいよ。

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