おまじない屋さんは、大繁盛。
高園寺さんは四年生、というか学校中の有名人なんだ。
黒や赤色の素敵なリボンやレースのついた服をいつも着ていて。
喋り方とか、すごく丁寧で上品で。
何より! 彼女のおまじないは、よくきくってハナシ。
恋に悩む女子たちが彼女のおまじない求めて、休み時間はいつも列を作ってる。
一時間、〇円って書いて占い師さんみたいにしたら、もうかりそうな感じ。
同じクラスだけど、そういえば一度も話したことがないかもしれない。
高園寺さん、あたしが手に持ってる本を見てにっこりする。
「その本、とってもいい本ですよ。おまじない初心者さんには、おすすめです」
初心者じゃなかったらごめんなさい、そう言って少しだけ首をかしげる。
ああ、あたし女子だけど、分かる。高園寺さんは、かわいい。
こういう服装、ゴシックっていうんだっけ。よく似合ってる。
少しカールがかったくせ毛を伸ばして、流れ星のピン留めしてる。
……どこで売ってるんだろ。あたしも、ああいうの、ほしい。
「ありがとう、じゃあ借りてみる。高園寺さんも、まじない探し?」
あたしが聞くと、高園寺さんもこっくり頷く。
「わたくしが教えるおまじないって、本からの受け売りがほとんどですから」
時々、自分で考えて作ったりもするんですけれどね。
そう言って、高園寺さんは、笑う。
きれいに笑える人だなあ。
「立夏ちゃん、おまたせー」
絵美ちゃんがやってくる。
「それじゃあ、また」
高園寺さんは、ふわっと笑って去っていく。
その背中を見送りならあたし、思った。
高園寺さんも、まじょに向いてるんじゃないかな。誘ってみよっかなって。
♢♦
放課後。黒原くんと並んであたしは、校門を出た。
「でも、よかったのか? 石口と帰らなくて」
黒原くん、少し心配そうな顔。あたしは笑う。
「だーいじょうぶ! 今日はまた図書室寄るって言ってたし」
「そっか、それならいいんだけど」
黒原くん、いったい何を心配してるんだろ。
「それより! あたし、もう一人まじょに向いてそうな人見つけたんだ」
あたし、得意顔になる。
「へえ、誰」
「高園寺京歌ちゃん」
「あー、あいつね。……確かに、向いてるかもしれないな」
「仲いいの?」
「いや、家が近所なんだ。家までまじない教えてって女子がよく来てる」
うう、それはなかなか迷惑かもしれない。
「知りたけりゃ、本を読めばいいのにな」
ぽつりと、黒原くんが言う。たしかに。
「めんどくさいんでしょ」
あたしが言うと、黒原くんがため息をつく。
「そうだろうな」
♢♦
キサラおばさんの店に着いたとたん、あたしはあいさつそこそこに言う。
「キサラさん! 新しいまじょ候補、見つけたかもしれません」
「別に、新しいまじょ候補を見つけてくれと頼んだ覚えはないけどねぇ」
キサラおばさん、不機嫌そうに言う。
あたし、最近気づいた。キサラおばさん、いつでも不機嫌なんだ。
だから、これが普通の対応。
「キサラさんがもっともっと幸せになれるよう、あたしお手伝いしたいんです」
あたしがそう言うと、キサラおばさん、とってもびっくりした顔をした。
あたし、そんなに変なこと、言ったかな。
「まあ、アンタの好きにしな」
キサラおばさん、あたしから目をそらして言う。
よし、キサラおばさんからの許可はもらった。
あとは、高園寺さんをどうやってここへ連れてくるか、だね。
どうやって誘おうかあたしが考えてると、急に首が引っ張られる。
あ、しまった。首かざり、つけっぱなしだった!
「あららら~」
情けない声を出しながらあたしが、首かざりにひっぱられて出発。
「え? 何が起きてるんだ」
黒原くんが変なものを見る目つきで、あたしを見る。
ああ、そんな目で見ないでー。
「あの首かざりは、困っている人に反応するんだ。アンタもいっといで」
キサラおばさんが、フォローしてくれる。
黒原くん、それで納得してくれたみたい。
「分かりました。一緒に行って、困った人を助けてきます」
「まほうせきの回収、頼んだよ」
キサラおばさんがあたしたちの背中越しに声をかける。
わかってますよー。
♢♦
「あれ、ここ、オレの家の近所だ」
しばらく首かざりに引っぱられて住宅街を進んだところで、黒原くんが言う。
その時、女子でごった返している家の前を通り過ぎた。
「あそこが、高園寺の家だよ」
うん、なんとなくそんな感じがした。
高園寺さんの家を通り過ぎて、首かざりは一列後ろの住宅群へ。
首かざりは、高園寺さんの家のちょうど裏手で止まった。
そしてあたしたちの目の前には、階段に腰かけている高園寺さんがいたの。
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