キサラおばさんと、あたしたち
「そもそも、まじょは元々、アタシたちの世界だけの特権だったんだ」
キサラおばさん、難しい話はやめてほしいんだけどな……。
あたしの心配をよそに、キサラおばさんは黒原くんに話してる。
あ、そもそもあたし、のけものにされてる!?
「アタシの世界とアンタたちの世界は別もの。この世界にはまほうなんてなかった」
ああ、難しい話が始まりそう。授業の時もだけど、まぶたが少しずつ重たくなる。
「立夏が寝ちまうから、手短に話すよ」
おっと、キサラおばさんにはバレてたか。
「あんたたちとは別の世界があって、そこには、まほうがあふれてる」
キサラおばさん、あたしの前にコーヒの入ったマグカップーを置いてくれる。
あたしはそのコーヒーをぐびびっと一気飲み!
あんまりコーヒーは苦いから好きじゃないんだけど、目は覚めるもんね!
「アタシたちの世界では男女関係なく、まほうを使えるものは、まじょと呼ばれる」
キサラおばさんは、黒原くんにもマグカップを渡す。
「昔はこちらの世界とアタシらの世界は完全に別れてた。でもね」
キサラおばさんは自分もまたマグカップを手に取り、中身を見つめる。
「あんたらに力を借りる必要が出てきた」
「力を借りる必要?」
なんの力を借りたかったんだろう。
あたし、少し興味が出てくる。
「簡単に言えば、人手不足さ」
キサラおばさんは、不機嫌そうに続けた。
「まほうを使える者が減った。だから外の世界から招き入れることになった」
その外の世界ってのが、ここさ。
キサラおばさんは、床を高いヒールの靴でこつこつさせる。
「この世界では、まじょってのが女だけのことを指す。だから」
キサラおばさんは、あたしの方を見る。
「最初は女の子だけを招き入れていた。そのあと、大人の女性も招いてよくなった」
そして最近になって、とキサラおばさんは言葉を切る。
「男もまじょになって構わない、ということになった。アンタのじいさんは」
黒原くんに向き直るキサラおばさん。
「こちらの世界で初めて、まじょになった男だったんだ。すごい人なんだよ」
そう聞いて、黒原くんはとても嬉しそうだった。
「そんなジイサンだから、たくさんの弟子がいた。その一人がアタシ」
キサラおばさんは言って、考え込む。
「しかし、あのジイサンの書物、いったい誰が盗み出したんだろう」
いやいやいや! だからまだ誰かが盗んだと決まった訳じゃないのに!
あたし、そう言おうとしたけれど。
何か言ったら、まほうで動物か何かに変えられてしまいそう。
だから、なんにも言わなかった。言いたかったけど。
キサラおばさんは顔をあげると、複雑な顔をした。
「ジイサンの弟子だったアタシのところに、アンタがきたのは何かの縁だろう」
驚いた、キサラおばさんが縁なんて言葉を使うなんて。
「アタシの弟子になるといい。その分、取り分はたっぷりもらうけどね」
意地悪そうな顔をする、キサラおばさん。
あのぅ。
黒原くんをここへ連れてきたのは、あたしなんだけど。
何かご褒美ちょうだいよおおぉっ!
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