キサラおばさんと、キートンおじいちゃん
「キートン! 本当に、キートンって名前だったのかい!!」
キサラおばさんは、黒原くんに詰め寄った。
今にも、黒原くんにつかみかかりそうな、そんな勢い。
だけど、黒原くん、全く気にしていない。
「そう、キートンって名前なんだって、自慢げに言ってたよ」
「もし、アタシの知ってるキートンなら。もし、そうなら……」
キサラおばさんは、黒原くんと目線が合うくらいに屈んで言う。
「そりゃあアンタ、すごい人の孫ってことになるよ」
そう言って、一度カウンターの奥へと消えた。
そして小さな写真立てを持って戻ってきたの。
写真立てには、一枚の写真。
古い写真のようで、かどっこが、丸くなってる。
よっぽど大事にしてたみたいで、ところどころ破れてしまったりしている。
写真には、たくさんの人が写っていたの。
一人のおじいさんを囲んで、女の人たちが思い思いの表情を浮かべてる。
どの人もみんな、幸せそうな顔を浮かべていた。
あれ? でも一人だけ、みんなから外れてそっぽを向いてる人がいる……。
もしかして、これがキサラおばさん?
あたしが写真とキサラおばさんを見比べると、キサラおばさん、にやっと笑う。
「言っとくけど、その一匹狼はアタシじゃないからね。アタシはこっち」
そう言って指さした先にいたのは、とーってもきれいな女の人。
え? これが、キサラおばさん? うそでしょ!?
あたしの気持ちが伝わったように、キサラおばさん、鼻を鳴らす。
「アタシだって、若い時はきれいだったんだよ。なめないでほしいね」
別に、なめてはいないんだけれど。
あたし、心の中で少しだけむっとする。
キサラおばさんは、黒原くんに向かって言う。
「それで? あの人、今、どうしてんだい?」
それを聞いて、黒原くんは暗い顔になっちゃった。
その表情を見て、さすがのキサラおばさんも気づいたみたい。
「まさか……」
「おじいちゃんは、去年亡くなりました」
「あのジイサンが、死んだ……」
キサラおばさんが言葉をかみしめるように、繰り返す。
こんな悲しそうな顔をしてるキサラおばさん、初めて見た。
キサラおばさん、ぽつりと言った。
「アタシはねぇ、そのキートンのジイサンの弟子の一人だったんだよ」
キサラおばさんが、黒原くんのおじいちゃんの、弟子!?
「この写真に写っているのは、すべてジイサンの弟子さ」
キサラおばさんが指で写真をなぞりながら話す。
「とっても、いい師匠だったさ。きっと、誰にとってもね」
ふんわり笑う、キサラおばさん。キートンさんを尊敬してたんだ。
それはそうと、とキサラおばさんが真剣な表情になる。
「ジイサンが持ってた本、まだ置いてあるのかい?」
捨てたりしてないだろうね、キサラおばさんが心配そうな顔をする。
黒原くんは、大きく首を横に振る。
「それが、おじいちゃんが亡くなってからすぐ、行方が分からなくなってしまって」
「それは一冊だけのことかい? それとも、もっとたくさん?」
キサラおばさんが鋭い口調で聞く。
黒原くんは、もう一度大きく首を横に振る。
「一冊だけではなく、書斎にあったまほうに関連する、すべての本が消えました」
「それは、まずいね。弟子の誰かが、持ち出した可能性がある」
キサラおばさんが腕組みをする。
でも、待って? 必ずしも、誰かが盗んだとは限らないよね。
おじいちゃんが亡くなって、誰かが片づけてくれただけかもしれない。
あたしがそういうと、黒原くんもまた頷く。
「親戚中でも、そういう話になってる。でも整理した人に心当たりはないらしい」
わ、それはとーっても不思議。
キサラおばさん、それを聞いてさらに深く考え込んじゃう。
「それじゃあ、ますます怪しいね」
キサラおばさんは、黒原くんに向き直る。
「キートンのジイサンは、まじょの世界じゃ、有名なまじょだったんだよ」
そういえば、まじょって女の人のことを言うよね?
まじょって、男の人でもなれるものだったのかな。
どうやら、黒原くんもそこが気になったみたい。
「まじょって、女の人だけの職業じゃないんですか」
すると、キサラさんは、ふふんとまた鼻を鳴らした。
「どうも、アンタたちの世界ではそういうものらしいね」
でも、とキサラおばさんは続ける。
「本来、アタシたちの世界ではそういうルールはなかったんだ」
キサラおばさんたちの世界。
それって、あたしたちの住む世界と、キサラおばさんの住む世界が別ってこと?
うわわ、なんだか急に話がややこしくなってきた!
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