黒原くんと、キサラおばさん
あたしと黒原くんは、キサラおばさんのお店の前にやってきた。
そういえば最初、どうやってここへ来たのかわからなかったな。
二回目にここへ来た時、キサラおばさんが教えてくれたの。
キサラおばさんには、まほうが使いたいって思う人を見つける力があるんだって。
店の近くを通った人が、まほうを使いたいかどうか、見極められるらしいの。
まほうを使いたいと思ってる人が通りかかったら、店の前へ導くっていう仕組み。
でも一度、その力を使うと当分の間、使えないんだって。
当分の間っていうのが、いったいどのくらいの間のことなのかは知らないけど。
一番最近使ったのは、あたしをここへ呼び出したときだったみたい。
だから当分、まじょになりたい人を探すのは難しいってキサラおばさん嘆いてた。
そんな状況だから、まじょになりたい黒原くんを連れて行ったらきっと喜ぶよね。
ちなみに、あたしみたいにまじょになった人の場合。
次からは来たいと思ったら、勝手にお店の前まで来れるようになるらしい。
ちょうど、今みたいな感じで。
あたしは黒原くんと一緒に、ボロボロのお店の屋根を見上げた。
黒原くんは、にやっと笑って言う。
「なんか、本当に黒まじゅつで包まれてそうな店だな」
ほんと。黒まじゅつのこと、よくわからないけど。
とりあえず、まほうが使えるならもう少しきれいにしたらいいのにとは思う。
店の前の大きな門、そして扉が勝手に開いた。
キサラおばさん、待ってたのかな。
あたしたちは、急いで家の中に入る。
すると、家の中に入った瞬間、不機嫌な声が聞こえてくる。
「まったく、虫が入っちまうだろ。さっさと入っておくれよ」
お菓子をあげるって言われたあとに、やっぱあげないって意地悪されたとき。
そんなときに浮かべるような顔をして、キサラおばさんが立っていた。
そしてその表情のまま、黒原くんとあたしを見比べて言う。
「この子はなんだい? なんだか、嫌な感じがするねぇ」
「キサラさん。こちらは、あたしの学校のクラスメートの黒原楽くんです」
あたしが紹介すると黒原くん、ぺこんと頭を下げる。
キサラおばさん、うーんとうなる。
キサラおばさん、礼儀正しい人が好きだからね。
「それで? アタシは別に、新しいまじょ候補を連れて来いって言ってないよ」
「でもでもきっと、仲間は、たくさんいた方がいいと思うんです」
あたしが言うと、黒原くんも続ける。
「まほうせき。自分の弟子が集めたものも、カウントされるんでしょ」
だったらたくさん弟子を作った方が得じゃないですか、と黒原くん。
それを聞いて、キサラおばさん、むむっと声を上げる。
「アンタ、それをどこで……」
「おじいちゃんが持っていた本です。そこにそう書いてありました」
黒原くんが胸を張る。別に、黒原くんが偉いわけじゃないんだろうけど。
え、でもちょっと待って。
今、自分の弟子が集めたまほうせきも、カウントされるって言ってなかった?
それって、あたしが集めたまほうせきは、キサラおばさんのものになるってこと?
えええええ!? そんなの嫌だよっ!
しかもそんな大事なこと、キサラおばさん、あたしに話してくれなかったよ!?
あたしが頭の中を整理していると、キサラおばさんが黒原くんに尋ねた。
「アンタのおじいちゃんってのは……」
「おじいちゃんは、キートンって名乗っていたそうです」
それを聞いた時のキサラおばさんの顔、あたし、今でも忘れられない。
嬉しそうでいて、とーっても悲しそうで。すごく複雑な顔だった。
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