黒原くんと黒まじゅつ

 放課後。あたしは、教科書をランドセルに詰め込む。


 隣で、黒原くんも乱暴にランドセルにノートや教科書を押し込んでる。


 黒原くんのランドセルの中、渡し忘れたプリントとか、いっぱい入ってる。


 あたしも人のこと言えないんだけどね。


「鳴川、早く、早く」


 黒原くん、あたしの片づけを手伝いながら急がせてくる。


 気持ちはわかるけど、そんなに急がなくても……。


 そんなことを思ってたら、絵美ちゃんが寄ってきた。


「立夏ちゃん、かえろー」


 あ、絵美ちゃん今日は図書室に寄って帰らないんだね。


 あたし、申し訳ない顔をして絵美ちゃんに言う。


「ごめん絵美ちゃん、今日あたし、寄り道して帰るから」


「あ、そうなんだ……。それじゃあ、ばいばい」


 絵美ちゃん、あたしと黒原くんの方を振り返りながら、帰ってく。


 ごめんね絵美ちゃん、絵美ちゃんにはまだあたしがまじょだってこと秘密ね。


 大親友に隠しごとなんて、本当はしたくないんだけど……。


 でもあたしがまじょだってこと、今は知られたらだめな気がする。


 キサラおばさんに、相談してみないと。


 黒原くんは既に黒いランドセルを背負って、絶賛待機中。


 あたしもあわてて、ランドセルをひっつかんだ。


 くよくよ悩んでたって、仕方ない。


 さ、キサラおばさんのところへ出発だ。


「ねぇ、黒原くんはどうして、まほうが使えるようになりたいの」


 キサラおばさんのお店へ向かいながら、あたしは黒原くんに聞いてみる。


 すると、黒原くん困った顔をする。


「おじいちゃんが黒まじゅつを使ってたから……かな」


 黒原くんは小さい時、よくおじいちゃんの家に預けられていたそうだ。


 お母さんもお父さんも仕事で家にいないことが多かったから。


 だけど、おじいちゃんの家にはゲームもないし、近くにスーパーもない。


 黒原くんは、とーっても暇だったみたい。


 ある日おじいちゃんの部屋(書斎っていうんだって)で黒原くんは見たんだって。


 何をって? 大きなお鍋で何かをかきまぜる、おじいちゃんの姿を。


 お鍋の下は普通の机だったらしいよ。でもなぜかお鍋は煮えてたんだって。


 まるで、コンロの火にかけてるみたいに。


 鍋からは緑色の湯気が出ていて、すっごく綺麗だったんだって。


 別の日にはおじいちゃん、とっても不思議な本を読んでたりしたんだって。


 おじいちゃんに何でそんな本を読んでるのか聞いてみたとき。


 おじいちゃん、笑顔でこう言ったんだって。


「おじいちゃんは、まほうが使えるんだよ」


 そして、その後に黒原くんを見つめてこうも言ったんだって。


「楽も、きっとまほうが使えるようになるさ」


 おじいちゃんは、楽くんに部屋の本を読んでいいって言ってくれたんだって。


 でも、これは読まないでほしいって言ってた本があったみたい。


 それが、黒まじゅつの本だったんだって。


 きっとおじいちゃんが、オレにはまだ早いってことで隠したんだ。


 そう思った黒原くんは、一生懸命黒まじゅつの本を勉強した。


 おじいちゃんの家にある黒まじゅつの本は難しすぎた。


 だから、図書館や本屋の黒まじゅつの本を、たーくさん読んだんだって。


 おじいちゃんに、ほめてもらうために。


 おじいちゃんは去年、亡くなったんだって。


 そしたらなぜか、書斎にあった本は、みーんななくなっちゃったみたい。


「おじいちゃんが、すごい黒まじゅつの使い手だったかどうかは、知らない」


 でも、オレはなりたいんだ。黒原くんは、強い口調でそう言った。


 なんだか、あたしがまじょになりたかった理由とは、まーったく違うね。


「鳴川は、なんでまじょになりたかったんだ」


 黒原くんが、不思議そうな顔をする。


「お前、あんまり悩みとかなさそうに見えるけど」


 失礼な! あたしだって、悩みの一つや二つくらい、あるわよ!


「宿題をまほうで片づけたいし! おやつをまほうで出したりしたいの」


「つまり、わがままってことだな」


 黒原くんが小さく笑う。いつもの「儀式」をしている時の笑顔とは違う。


 黒原くん、こんな顔もできるんだ。びっくり。


 まほうのおかげで、これから色んな人の、色んなものが見れるかもしれないね。


 なんだか、楽しみになってきた!


  








 




 

 



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