まじょになりたい黒原くん

 チャイムが鳴っても、すぐには先生は来ない。


 いーっつも、チャイムが鳴る寸前まで、川西先生はお茶を飲んでるから。


 だからあたしのクラスのみんなは、席にはついてるけどお喋りしまくってる。


 あたしと絵美ちゃんは席が離れてるからお喋りしたくても、できないんだけどね。


 あー、友達同士で席が近い人たちがうらやましい!


 黒原くんは今までにないくらい輝いた目で、あたしのランドセルを見つめてる。


「あたしのランドセル、そんなに気になるの?」


「黒まじゅつで、ランドセルに命が宿ったんだ」


 黒原くん、とても嬉しそうに言う。


 あたしもランドセルを見てみる。


 うわ、ぜーったい、中で杖が暴れてる!!


 あたしが慌ててると、黒原くんが言った。


「お前、どこで黒まじゅつ覚えたんだ?」

 

「黒まじゅつ、じゃなくて、まほうだよっ!」


 あたしはそう答えてから、あっと手で口を抑えた。


 しまった、まほう覚えたって言っちゃったようなもんじゃない!


 すると黒原くん、一瞬驚いた顔をする。


 けどすぐに、ずずいっとあたしの方へ身を寄せて小声で言った。


「ほんとに!? ほんとに、黒まじゅつ、使えるのかっ!」


 黒原くん、なんだかすっっごく嬉しそう。


 黒まじゅつじゃなくて、まほう、なんだけど……。


「オレも、黒まじゅつ、使えるようになりたいんだっ」


 どうしたらいいか教えてくれっ、黒原くん必死の表情。


 まじょだってばれたときのこと、キサラおばさんに聞いておけばよかった。


 あたしちょっと、自分で反省する。


 どうしよう? でもきっと、黒原くんは悪い人じゃないよね。


 ……決めた。


 黒原くんにも、まじょになってもらおう。


 あたしからキサラおばさんにお願いしたら、きっと許してもらえる。


 こんなに、一生懸命にクラスメートに頼まれてるんだもん、ほっておけない。


 あたしは、小声で黒原くんに言った。


「それじゃあ、放課後あたしについてきて。まじょのところに連れて行くよ」


 あたしの言葉を聞いて、さらに黒原くんの表情が輝いた。


 いつもすっごく暗ーい表情で「儀式」だって叫んでた黒原くんとは、別人みたい。


 するとあたしのランドセルから、コトンって音がした。


 そーっとランドセルを開けてみる。


 すると、杖がまほうせきを入れる小瓶をつついている。


 あ、いつの間にか、まほうせきが一つ増えてる。


 え? 誰の?


 もしかして、黒原くんを喜ばせてあげられたからかな。


 やった、首かざりの力を借りなくても人助け、できたかも!

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