初めてのまほうせき
「あー、助かった」
あたしは、自分のベッドにダイブする。
ただいま、ベッド! 今あなたのもとに帰ってきました!
まだ湯気が立ってるパジャマ姿で、あたしは布団に埋もれる。
いやあ、今日も色んなことがあったなぁ!
あの後、全力疾走で家に帰ってきたあたし。
多分、今までの人生で一番、頑張って走ったんじゃないかな。
帰ってきたら、玄関口にお母さんが立っていた。
あたし、あの様子をなんていうか知ってる。
シュラバ、またはニオウダチっていうんだよ。
そんな状態のお母さんにガミガミ叱られた。
その後、冷めてしまった料理を食べて、お風呂に入って。
今、自分の部屋に戻ってきたところ。
あー! とっても疲れたッ!
布団でバタバタしてると、杖がふわふわと漂ってくる。
杖は、あたしの隣に着地すると、二度ほど揺れた。
すると、びっくり! 杖の隣に小瓶が出てきたの!
小瓶の中には、キラキラ光る音符がふたーつ。
小瓶の中で楽しそうに、はねてる。
あたしは小瓶を持ち上げて、自分の前に置いた。
音符は、小瓶の中であたしの方にはねたり、上にはねたり忙しそう。
「これが、まほうせきってやつかなぁ」
あたしは、小瓶の中の音符を見つめる。
数は全然違うけど、キサラおばさんの小瓶の中に入っていたものと似てる。
今までなかったはずの、まほうせきが、二つ。
一つはあの女の子のもので、もう一つはおばあちゃんのものかな。
じゃああたし、あの二人のこと幸せにできたってことだよね。よかった!
あたしは、るんるんした気持ちで小瓶を見つめた。
あたしにもできることがある、そう思うととーっても嬉しかったんだ。
そんな時。少しずつ、まぶたが重くなってきた。
ああでも、宿題まだやってないんだ、やらなくちゃ……。
そう思ったけど、悪魔のあたしがささやく。
ちょっとくらい、大丈夫さ。今眠ったら、夜中には起きれるさ。
そう、そうだよね。今まだ夜九時だもん。さすがに朝までには起きるよ。
そんなわけのわからない言い訳をしながら、あたしはベッドに身を任せた。
次に気が付いた時。慌ててベッド近くに置いた目覚まし時計を見る。
八時。ん? 眠り始めたときって、九時じゃなかったっけ? あれれ?
外を見ると、光があふれていて、外では小鳥がちゅんちゅん鳴いてる。
……終わった。これは、完全に終わった。
二日連続宿題忘れ決定だよ、どうしよう……。
視界がうるんで見える。ああ、杖が二つに増えて見えるよ……。
「宿題、終わってくださーい!」
あたしは、叫んだ。でもどうせ、杖から舌がチロチロ出るだけでしょ。
そう思ったんだけど。実際は違ったの。
あたしの言葉とほぼ同時に、杖と、まほうせきの入った小瓶が光ったんだ。
あたしがびっくりしていると、ランドセルから宿題がふわり。
ついでに筆箱から、えんぴつとけしごむも、ぴょこん。
そして宿題のページを開いて、えんぴつが何やら忙しそうに動き始めるの。
え? え? どういうこと?
あたしが止める間もなく、えんぴつは一生懸命左右に動いてノートをうめつくす。
ものすごい速さであっちこっちへ動きまわる宿題たち。
文字で埋め尽くされると、ランドセルに一冊ずつ戻っていく。
最後は、筆箱がランドセルに帰って、ランドセルの蓋がパタン。
物音ひとつしなくなった。
あたしは、ぼーっとランドセルを見つめるしかなかった。
お母さんがあたしの部屋の扉をたたいて起きなさいと言ったとき。
その時あたしは、杖と小瓶の方を振り返ったんだ。
そしたら。小瓶の中身はなんと、空っぽになってしまっていたの。
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