まほうせき

「まじょって、自分のためにまほうを使うことはできないんですか」


 あたしは、ほほをふくらませてキサラおばさんを見る。


 こうしてると、大人からかわいいって言われるから、余計に嫌だけど。


 キサラおばさんは、真剣な顔であたしを見つめてくる。


「できないことはない。まじょだからね。けどね」


 ここで言葉を切って、キサラおばさんはあたしの方へ身を乗り出す。


「自分のために魔法を使うには、それだけの対価が必要になる」


「タイカ?」


 タイカって何だろう。


 タイカノカイシンなら、知ってるけど。きっとちがうよね。


「たとえばアンタが何かを買うとき、お金を払うだろう?」


「はい」


 あたしは、お店で何かを買うときのことを考える。


 かわいいぬいぐるみを買おうと思ったら、お金をお店の人に払う。


 そりゃあ、そうだよね。


「まほうを使うのにも、それに見合った価値のものが必要になるってことさ」


 おばさんはそう言って、奥の棚から小さな小瓶を取り出してくる。


 小瓶の中には、キラキラ光る様々な形のものがぎゅうぎゅうにおさまってる。


 涙の形をしたもの、太陽の形をしたもの、音符の形をしているもの。


 いろんな形があって、大きさも違う。光り方も違う。


 とーってもきれい。


「これは……」


「まほうせきっていうんだ。まほうをつかうためのお金のようなものさ」


 おばさんは言って、小瓶を振ってみせる。


「自分のために使うまほうには、必ずこれが必要なんだ」


「どこに売ってるんですか」


 あたしもたくさん集めたい。お小遣いで、どれくらい買えるかな。


 そしたらおばさん、また笑い始めちゃった。


「これは、お金じゃ買えないんだよ。いや、売ってる場所もあるけどね」


 アンタたちのお金じゃ買えないのさ。そう歌うようにおばさんは言う。


「自分のためにまほうを使うためには、これを集めるしかない」


「集める……?」


 あたしは、道端や、砂浜を必死になって探す光景を思い浮かべる。


 え? 宝探しをするの?


 すると、キサラおばさんはにやにや笑う。


「なんとなく、アンタが考えてることはわかるよ。宝探しは、しなくていい」


 あたし、ほっとため息が出た。どこを探していいか、分からないもん。


「簡単なのは……、そうだねぇ、困っている人を助けることだね」


「困っている人を助ける……?」


 あたしが繰り返すと、おばさんは頷いた。


「そう、人助けをして集めるのさ」

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