まほうの首かざり

 困ってる人って、そんな簡単に見つかるのかな。


 あたし、心配そうな顔をしていたみたい。


 キサラおばさんが、椅子から立ち上がりながら言う。


「そんな顔しなくても大丈夫さ。簡単だよ」


 おばさんは、小瓶を元の場所に直しに行く。


「困っている人の居場所は、このペンダントが教えてくれる」


 小瓶を直した棚から別の品物を持って、おばさんは戻ってきた。


 ピンクと赤色の素敵なネックレスが、カウンターに置かれる。


 ほこりをかぶっていて、色がかすんでいた。


 でも、おばさんがきれいな布で一ふきしたら、あらふしぎ!


 とーってもあざやかで、きれいなネックレスになった。


 アニメとかでよく見る、まほう少女とかが持ってる首かざりみたい!


 あたしが身を乗り出して眺めていると、おばさんはにやっと笑う。


「この首かざりはね、困っている人を見つけてくれるんだよ。ほしいだろ」


「もっちろんっ! ほしいですっ」


 こんなにかわいい首かざり、ほしくないわけなんてない!


 これをしてるだけで、とーってもまじょっぽい!


「あげるよ。アタシには必要ないものだからね」


 おばさんの目が、きらりと光ったような気がした。


 いたずらっぽいような、いじわるっぽいような輝き。


 これは、とーっても悪いことを考えてる気がする。


 あたしはちょっとだけそう思ったけど、もうおそい。


 あたしは、首飾りを手に取っていた。


 でも、一つだけ聞いておこうっと。


「キサラさん、どうしてこんな素敵な物、いらないんですか」


 あたしの問いかけに、おばさん少しだけ慌てた声で言う。


「えっ!? どうしてそんなこと聞くんだい」


 だって、キサラおばさんは、こんな素敵なもの手放すように見えない。


 人に何かをしてあげるような人に、あんまり見えないんだよね。


 だから人には、いらないものしかあげないんじゃないかって思って。


 もしそうだとしたら。この首かざりにも、何か問題があるかもしれない。


 キサラおばさんが、いらないって思うような理由が、あるかもしれない。


「な、何にもないさ。ただ、その色合いがアタシにはかわいすぎてね」


 おばさんの言葉に、少しあたしは納得する。


 うん、確かにキサラおばさんには、かわいすぎるかも。


「それにね。アタシくらいのまじょになると、そんなものなくても大丈夫なのさ」


 困ってる人くらい、自分で探せるからね、とキサラおばさん。


 それを聞いたら、ああ、大丈夫かなとあたし、安心しちゃった。


 きれいな首かざりを、自分の首から下げてみる。


 わあ! これだけであたし、いつもよりかわいくなった気分!


 だけど、そんな嬉しい気持ちに包まれたのは一瞬。


 首が、ものすごいいきおいで引っ張られる。


 え、え、何!? 何が起きてるの!?


 あたしは、椅子からすべり落ちて、首かざりにずるずる引っ張られる。


 キサラおばさんを見上げると、にやっと笑ってる。


「困ってる人が見つかったようだ。夕飯前にひとふんばりしといで」




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