第3話

老人は淡々と語り出した。

「温暖化による海水面の上昇に加え人類はもう一つ大きな問題を抱えていた。

増えすぎた人口だ。土地は海水で侵食されているのに国には食料が足りなくなるほどの過剰なまでの人がいた。そんな時とある科学者達のチームが温暖化も人口増加も二つともの問題を打開する夢のようなシステムを開発したのだ。問題を抱えたお偉いさん達にとって夢のような、民にとって悪夢のような方法さ。」

老人は一呼吸おいてまた話出す

「『人の願望を吸い取り、それを光エネルギーに変換する装置』彼らはこんなものを生み出してしまった。このシステムで生み出した光エネルギーは今現在でも使われている太陽光発電によって電気へと変えることができた。もちろん太陽光発電はそれまでの多くの発電方法で問題だった二酸化炭素という温暖化を促進する物質の排出がない。このシステムと組み合わせれば太陽が雲に隠されていようが雨が降っていようが絶えず発電でき、弱点であった太陽の光の確保を克服したのだ。そして光エネルギーを生み出すシステムの源だが、人の願望や願い......つまりその器である人そのものを使う。願いを全て吸い尽くされた人間は廃人となり死んでいく。廃人となった人々の処理も、このシステム開発が開発される数年前に確立されたフリーズドライ式の埋葬の仕方で二酸化炭素がでない。まさに温暖化、人口増加の2つの問題を一気に解決する技術だ」

「じゃ、じゃああの太陽ってもしかして」

「そう、人の願望を糧に輝き、人を死に追いやる悪魔の装置そのものだ。そういう意味では人々の信仰で輝くというのもあながち嘘ではないがな」

老人はそこで一息おいた。

少年はただただ呆然としていた。

もし老人の言った言葉が全て真実なら中央行きとは老人の言葉通り中央の上で輝く太陽の『餌』の供給そのものではないか。

「受け入れがたいだろう。

もちろん当時の民衆に話したって同じ考えを抱くのは明白だ。だから国は考えた。民衆に隠し、それでいて気づかれないような方法をな。それが『中央行き』の制度だ。表向きは下、中流階級の人々を上流階級のみが住める中央の島へと移住させる制度。もちろんその実態は擬似太陽が輝きを失わないようにするためのエネルギー源の供給だがな」

「か、母さんを助けなきゃ......今すぐにでも中央に行って助けないと!!」

「待て、どうやって行くつもりだ?なんのために表向きは上流階級だけが住める場所にしているか考えろ。たとえ真実を知った輩がいても入れないようにするためだ。そう、お前のようにな」

「でも、僕には中央行きのパスポートだって発行されてる!もう一度申請すれば中央に行くことぐらい」

「できない。パスポートの再発行は不可能になっている。中央に行きたければもう一度政府に選ばれることだな」

「それじゃあ、母さんは......」

「諦めろ、とは言わん。そして中央に行く方法も提供してやる。ただし、条件があるがな」

「なんでも言って!母さんを救うためならなんだって......!!」

「擬似太陽を墜とせ。結果的に母親を含めこれからの何万という人々を救うことになる」

「で、でもどうやって」

「『願い』だ。擬似太陽は願いを糧として輝いているのは説明した通りだ。だが一度に光に変換できる願いの量には限界がある。また、中核に近づけば近づくほど願いを吸い取る力が強くなる。大量の願いを込めて中核まで行けば擬似太陽をオーバーフローさせて壊すことができるというわけだ」

「願いを込めて......太陽を墜とす......」

「そうだ。引き受けるか?」

「太陽が堕ちたら......世界はどうなるの?」

「......しばらくは暗闇に包まれるだろうな。擬似太陽が光以外に生み出すものについてだが、副産物として雲を生み出す。擬似太陽の機能を停止させるということは雲を生み出す機能も停止させるということだ。擬似太陽を墜とせば、この世界を覆う雲も自然に薄くなっていくだろう。そうすれば雲の上から本物の太陽がお前たちを照らしてくれるはずだ」

「本物の太陽...わかった。やるよ」

少年は決意固めた。

「では荷造りといこう。こうしている間にも犠牲になる人が出ているからな」

老人と少年は丘を後にした。迷っている暇など少年にも老人にもないのだから。

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願いを背負うもの 夕暮れ @akaiotya

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