第2話

(この老人は何を考えているのだろう)

少年は老人に連れられながら考えた。

(僕らは中央行きの船に乗っていた。それを賊に襲われてここに連れてこられた。老人曰く『救った』だそうだが)

(それに母親はどうなったのだろう。父親と弟が早くに他界した僕は唯一の家族である母親と一緒に船に乗っていた。あの部屋にいなかったから賊からは守られて無事中央に行けたのだろう)

その時少年の脳裏に『餌』という単語が浮かんだ。さっき老人に言われた言葉だ。中央に行った民は言わば餌なのだと。その意味は少年にはわからない。第一老人の言ったことは大抵が理解できていなかった。温暖化だとか海水面の上昇だとか。壁のことはわかる。少年の元々住んでいた土地の周りも壁で覆われていたから。風化も劣化も侵食も受けない特別な素材でできていることも。だから老人が言っていた壁のことは理解はできた。勿論そんな昔に発明されたものだとは少年は知らなかったが。また少年は老人にさっきの商人の会話からもう一つ疑問を抱いていた。

(500年生きてる?)

商人との会話で老人は自分が語ったことは全て自分が見てきたことだと言った。もし自分に話していることと同じことを言っているのなら老人は500年生きていることになる。それはふつうに考えておかしい。どう考えても人間が生きていられる時間ではないのだから。

そんなことを少年が考えているうちに目的地についたのか老人が立ち止まった。小高い丘の上だ。

「あそこに見えるものはなんだ?」

老人は中央に浮かぶ島の上に輝くものを指差した。

「太陽」

「その通り。だがあれは本物ではない」

少年は老人がますます何を言っているのか理解できなくなった。

「太陽が本物じゃないだって?じゃあ本物はどこにあるのさ?」

老人はゆっくりと上を向いた。つられて少年も上を見る。そこには一面の雲があるだけだった。

「あの雲の上だ」

「雲の上?そんなものはないだろ?雲が空の天井。太陽は民衆の信仰を受けてそれを力に雲の下、中央の真上で輝いているんだから」

「言ったはずだろう。お前は大きな勘違いをしていると。ここに来てお主はさらに2つの勘違いをしていることがわかった。まず1つ、その常識はこの世界の真理ではない」

「な、何言ってるんだよ...」

「お主にこの世界の真理を教えてやると言っている。お主は嘘にまみれた情報ばかりを勉強してきたようだからな。そのいくつかを正しい情報に変えてやるのだ」

「じゃあ...じゃあ中央の上にあるあれは太陽じゃないならなんなんだよ!!」

「ふむ、当然の疑問だな。偽物、あれを作った科学者は擬似太陽と呼んでいたかな。その科学者の言う通りあれは本物の太陽を真似た偽物だ。もちろん太陽と同じように世界を照らす働きをしているがな。本物は雲の上、果てはその先に広がる世界から我々を照らしてくれていた」

「雲の上に広がる世界から...」

「そうだ。そしてお主が勘違いしていた2つ目。あれはどうやって輝いているかだ」

「信仰を力に...これも違うのか?」

「その通りだ。なぜ輝いているのかを話すにはまた500年ほど前に遡らなければならん」

「温暖化や海面上昇の話?あれはよくわからなかったけど...」

「単純に『世界が危機的状況にあった』それくらいの考えでいい。そしてこれから話すこともやはり世界を危機的状況に追い込んでいたのだ」

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