第 8話 フリド・べローニャ会戦 前編


 ―レリウス歴1583年7月17日正午前

  フリド・べローニャ―



 パノティア王国、第1王子のエリンスケルコは、勝利を確信せずにいた。

 弟のフランケルコ秀吉に追放され、その報復と自身の正当性を示すため、すぐに兵を上げたのである。だがそれも、カスティリヤ盆地で大敗を喫したのだ。

 だからこそ、今回は必ず勝てるようにと兵力の増強を図り、入念な準備をし、このフリド平原・べローニャにやって来たのである。

 全ては、憎きフランケルコを討つために。

 時間は掛かったが、集まった兵力は3万3千にも上った。

 自身を支持する貴族や、在野の傭兵を雇っての兵力だが、しかし――。


 「殿下。やはり我が方の兵士達は皆、徴用して日が浅く、浮足立っております」

 「いちいち言われんでも分かっておるわっ!」

 「ハッ! 差し出がましい真似をいたしました……」


 彼らは、簡単な訓練を施しただけの烏合の衆であった。

 そしてそれを遠回しに指摘されれたものだから、エリンスケルコは反射的に激昂したのである。

 指摘した貴族の男性は思った。

 この第1王子の沸点が、この半年で大きく下がってしまったと。


 「どれくらいだ?」

 「? なんと仰いまし――」

 「フランケルコの兵はどれくらいいるのだと聞いておるのだ!」

 「ハッ! お、恐らく1万5千程かと……」

 「我々の半分だと!? ふざけるな!」


 エリンスケルコは頭をガシガシと掻きむしりながら、1キロメートル以上先に布陣するフランケルコ派を睨みつけた。

 腕を広げたような凹型の陣形に、フランケルコ派は布陣している。

 これ以上ない程に豪勢な椅子に座りながらも、エリンスケルコはそれをどうするべきかと、漠然とした悩みに苛まれていた。


 そんな今のエリンスケルコの周りには、やはり太鼓持ちの貴族が立っている。

 しかしその数は、以前の戦いの時カスティリヤ盆地戦より半分以上少ない。

 消えた半分は第1王子を見限ったか、或いは前回の責任を負わされて処刑されたかである。


 元々、エリンスケルコは衝動的で本能的な性格の持ち主であった。

 国王が健在な時からすでに、国庫から財を勝手に持ち出しては享楽に耽っていたのだ。

 自身の領地でも、家臣の反対を押し切って税を重くすることもしばしば。

 そんなエリンスケルコだからこそ、一度の敗北で繋がりの浅い貴族に見限られ、フランケルコ側の調略で簡単に立場を変えてしまったのだ。


 「勝てるか?」


 エリンスケルコは、まるで独り言のように聞いた。

 誰に聞かせたのかも分からないその一言は、しかしどこか怯えに似た感情が籠っているようにも思える。

 少なくとも、その一言を聞いた貴族達は皆、一様にそう感じ取っていた。


 「……敵は我々の半数です」


 意を決したかのように、近くにいた貴族が答える。

 立派なカイゼル髭を生やした、ドナート伯爵であった。

 戦闘の指揮経験のあるドナートだが、前回の戦いで他の貴族の中に埋もれてしまったため、今回はその挽回機会をもぎ取ったのだ。


 「それに加え、我々は丘の頂点を中心に陣を敷いております。簡単に負けることは無いかと……」

 「前回は3分の1の敵に負けたのだぞ! 此度はそれよりも多いのだぞ!!」

 「前回は……確かに、敵の術中に嵌り、敗北を喫しました……しかし、此度は敵の罠に掛からぬよう、軽々な行動を控えさせ、余裕をもって敵を押しつぶせば、殿下も勝利の栄誉に浴すことが叶うでしょう」

 「……本当だろうなドナート伯」

 「はい。間違いありません」

 「そうか。そうか……」


 ドナートは自信を持って首肯した。

 実際、ドナートの言ったことは正しく、確実且つ堅実な用兵を用いれば負けることは無いのである。

 しかし、それをイマイチ理解できていないエリンスケルコは、それでもドナート目を見ていくらか落ち着きを取り戻したのだった。


 「敵の陣容は、どうなっておる?」

 「はい。我が方から見て敵は、最右翼にフランケルコの隊3千が3列横隊に。その隣にはアンリマルクの兵4千が方陣で並び、そこから左翼までは、マキャベロ、クラーチェ、ブランターニュ、トロワイユの隊と隙間なく凹型に布陣しております」

 「うむ」


 対するエリンスケルコ派は、やや小高い丘の頂点に布陣したエリンスケルコを中心とし、他の隊が前面と左右を扇状に布陣している。

 攻も守も意識したこの陣容は、前回の戦いでの教訓とトラウマが如何に垣間見えるかが分かるだろう。

 さらに、このトラウマを克服せんと考えられたことが、もう一つある。


 「敵の布陣はともかく、我々は敵の精鋭銃兵に対抗するため、より多くの魔法兵を動員しました。これで、まずはフランケルコの隊を重点的に叩くべきです」

 「伯の言うことは尤もだ」


 魔法兵という存在が、エリンスケルコにとっての鎮静剤であった。

 敵銃兵の射程外から、魔法攻撃を絶え間なく放つことで敵を、少なくとも抑え込むことが出来る。

 遠くから打てばその分、障壁魔法なりで防がれてしまう可能性が上がるのだが、それはそれで敵の魔法兵も封じることが出来るのだ。

 貴族や軍人を集め、話合わせた結果、こうした策がとられたことを思い出し、エリンスケルコは頷いた。


 「では伯の言う通り、まずは魔法兵に攻撃させよ。目標はフランケルコだ!」


 エリンスケルコは立ち上がり、号令を発する。未だ不安は残るものの、次こそは勝てるはずだと、半ば自身を騙すかのように言い聞かせて。


 『……』


 また、エリンスケルコに未だ臣従する貴族達も、攻撃の準備をする魔法兵を固唾を飲んで見守っていた。

 確かに、魔法兵はかなりの量を動員しただろう。だが、ここにいる魔法兵は、未だ国境を守る精鋭のそれとは程遠い、言わば下位互換のような実力だ。

 それも、2ランク3ランクも低いような、急ごしらえの未熟なものであった。

 それを分かっているからこそ、ドナートを含む彼ら貴族は、不安に満ちた表情でそれを見守っていたのだ。


 知らないのは……いや、それを度外視しているのは、エリンスケルコだけである。

どんよりとした曇り空のように、未明に止んだ雨が地面を汚したように、その眼を濁らせて……。




――――――――――――――――――――――――――――――――




 「撃ってきました! 敵の魔法攻撃です!」

 「やはり・・・撃ってきおったか。余程儂らの銃兵が怖いと見える」

 「予定通りだね」


 フランケルコ派の最左翼にある本陣では、ついに始まった今次戦いの様子を、障壁魔法に守られながら見守っていた。

 人体が持ちうる魔力を、体外で魔法という現象に変換したそれが、今、英弘達に襲い掛かってきている。

 火の玉や紫電となったそれが頭上に降り注ぐ。だがしかし、味方の障壁魔法によって防がれているのだ。

 英弘は猛烈に降り注ぐ魔法に慄きつつ、必死に冷静さを保っている。

 秀吉は小馬鹿にした笑みを浮かべてエリンスケルコの本陣を見つめ。

 忠道は魔法攻撃などどこ吹く風と言わんばかりに平然と佇んでいた。


 「しかし、兄上も大胆な作戦を思いつかれる」

 「おお! 来たかアンリ!」


 三者三様に戦いへと望む彼らギフトに、第3王子、ナポル公アンリマルクがやってきた。

 秀吉の実弟であり、黒くウェーブの掛かった髪をオールバックに撫でつけた、フランケルコ秀吉よりややガッチリとした青年だ。

 因みに、顔立ちは兄よりも幾分か二枚目である。


 「アンリマルク殿下、ご自身の隊から離れて大丈夫なのですか?」


 英弘がアンリマルクにそう話しかけた。

 2人の関係は、英弘が秀吉に臣従を誓った頃まで遡る。廊下ですれ違う度に親し気な声を掛けてくれるアンリマスクのことを、英弘は好ましく思っていたのだ。


 「問題ないよ、キルク。君の兄上がしっかり守ってくれているからね」


 魔法の弾ける音が響く度、頭を守る英弘は、アンリマルクがチラリと送った視線の先にいる2人の近衛兵を、特にその片方を見やる。

 そこには青ざめたセルクが、近衛赤組用の赤い鎧を着てアンリマルクの傍に控えていた。

 セルクは、この戦いが初陣であったのだ。


 「は、はは……お互い、まだ生きてるな」

 「……へへ」


 思わずついて出たセルクの言葉に、英弘は乾いた笑みでしか応えられなかった。


 「アンリよ、お主から借りた魔法兵が役に立っておるぞ」

 「恐縮です」


 秀吉が頭上を指差し、感謝の意を示す。

 それをアンリマルクは、心の底からホッとした様子を浮かべて応える。

 だが、いつこの状況が覆されるかも分からず、アンリマルクの体は冷や汗をかかずにはいられなかった。


 「しかし、敵の魔法攻撃を正面から受け止めると仰られた時は、正気を疑いましたよ」


 「じゃが、儂のやま・・は当たったじゃろう?」

 「はい。見事なまでに」


 秀吉の言うやま・・とは、つまりこういうことである。

 敵は前回の戦いカスティリヤ盆地戦での教訓を生かし、秀吉の銃兵をその射程外から攻撃するだろうと、そう予測したのだ。

 そして、そのやま・・は見事に的中した。


 「それに、これも予想通りだね……敵の魔法兵に熟練者は少ない」


 忠道の発言に、秀吉とアンリマルクは頷いた。英弘は未だ、降り注ぐ魔法に気が気でいられない。


 「敵の魔法兵は1カルメル625メートル先から撃って来てるけれど、ここに到達しているのは、その半分だけだ」

 「そうじゃ。それも織り込み済みじゃ。敵は急ごしらえの魔法兵ぞ」


 気が気でいられない英弘とは対照的に、秀吉と忠道は冷静に状況を分析していく。

 この辺りの冷静さの違いは、幾度もの死線を経験したその差であるだろう。

 前回とはまるで規模の違う魔法攻撃に、英弘は恐怖を感じていた。


 そんな英弘の姿を横目でチラリと視認する秀吉は、どうすれば英弘の胆力を鍛えられるのか? とある意味打算的な思考に支配される。

 いずれは英弘にも1個の隊を預けたいと、そう考えていたのだ。


 「兄上、敵の魔法攻撃が散発的になってきました」

 「うむ。そのようじゃなアルク」


 傍にやって来たアルクの報告に、秀吉は頷く。


 「しかし殿下、予想以上に早く敵の魔法が途切れてきましたね」

 「英弘よ、敵もまるっきりのバカではないからのう。魔力を使い切るような真似はせんじゃろう。温存して、次の機会にとっておくつもりじゃ」

 「では兄上、手筈通りに敵の前進を待ちますか?」

 「うむ、そうじゃな。アンリは自陣に戻っておれ」

 「ハッ」


 エリンスケルコ派からの魔法攻撃が完全に収まったのは、この直後であった。

 その頃にはアンリマルクも、セルクら近衛兵を引き連れて自陣へと戻り、敵の前進に備える。

 数では負けるものの、当然秀吉には、それに対抗する作戦があった。


 「じゃあ僕も、前線に行って彼ら・・の指揮を執るよ」

 「うむ。頼むぞ、忠道」


 秀吉の作戦の要である主力部隊は、忠道が指揮を執ることとなっている。忠道は小さい体つきながらも慣れた動作で馬に乗り、自ら指揮を執る部隊へと向かった。


 「いよいよ、こちらの作戦開始ですね」

 「そう。いよいよじゃ」


 英弘が発語する。馬で駆けて行く忠道を見送りながら。

 魔法攻撃が収まっても、英弘の体は小刻みに震え、精神的にも疲労が見てとれた。

 彼は、これが2回目とはいえ、戦場に立つこと自体に深刻なストレスを感じていたのだ。

 だがそれでも、自らの意思でここに来た以上泣き言は言っていられない。

 今は、何事も無く作戦が成功することを祈るばかりだ。

 そして、その作戦を練った秀吉も、その作戦が実行されるのを、今か今かと待っていた。


 「まだ……来ないですね」

 「我慢じゃ。今は我慢の時ぞ」


 英弘達は待った。敵が数に物を言わせ、全面的な攻勢に出ることを。

 だが、彼らはある計算違いを、この時犯していたのだ。

 それは、英弘達が思っていた以上に、敵に刻み込まれた前回のトラウマ敗北が強烈だったこと。

 そして、敵の魔法兵が、実は魔力切れを起こしていたことである。


 彼らエリンスケルコ派は、前回のような罠を警戒していた。

 闇雲に突撃すれば、罠にかかるかもしれないと考え、全面的な攻撃に対して及び腰になっていたのだ。

 さらに、急ごしらえの魔法兵の魔力が思った以上に少なく、相当数の魔法兵が魔力の枯渇で使い物にならなくなった。

 当然、そんな魔法兵の脆弱さにはエリンスケルコ派も驚きを隠せずにいた。


 これで、迂闊に攻撃できなくなった。と。


 以上の顛末を未だに把握できていなかった英弘達は、いつまで経っても攻勢に出ないエリンスケルコ派に対し、不安感と苛立ちを募らせていった。

 それは彼らの作戦の前提として、敵の攻勢が必須であったからだ。


 「なあにをしておるかあのバカ兄は!!」


 昼食の時間を完全に逸してしまった頃のこと。


 「何も考えずに数の力で攻めてくればよかろうが! 戦の素人はこれだから!」


両者睨み合いの中、呑気に昼食休憩などできようか。その空きっ腹具合と合わさってか、秀吉は怒髪天を突くかの如く、怒りを露わにしていた。

 ここに至って、思い通りに事が進まなくなったことへの怒りであるだろう。


 「……」


 そんな怒りに猛り狂う秀吉とは逆に、英弘は時間を置いたことで冷静を取り戻し、状況の把握に努めることが出来た。

 何故敵が攻めてこないのか? 罠の可能性を考えているから? 守勢を徹底しているから? それとも別動隊を待っているから? そもそも、魔法兵は本当に温存の為に攻撃を止めたのか?

 様々な要因をこの戦場から抽出し、唇に拳を当てて思考を巡らす。


 そして、ある仮定に辿り着いた。

 敵の練度は最悪。士気も低いと思われる。別働隊を率いる中級指揮官も、優秀な兵もいないと仮定しよう。そんな彼らが、ありもしない罠に怯えていたら?

 全て可能性の話であったが、確立的には十分高いと思える。

 英弘は意を決して秀吉に伝えた。


 「殿下、敵はもしかしたら、ありもしない罠に怯えているのかもしれません」

 「なに?」

 「もし敵に別動隊なり取れる策があるのなら、既に我々は何かしらの被害を受けているでしょう」

 「ふむ……じゃがそれがないとしたら……」

 「はい。敵は、要するに我々にビビッているんです。こちらへと向かって来るように仕向ければいいかと」


 その瞬間、秀吉は大きく口を歪めて狂喜の形相を浮かべた。

 英弘はそれを、まるで口が裂けたかのように思った程だ。


 「よう申した英弘!」


 怒りの頂点から、狂喜の頂点に飛び移った秀吉は、英弘の両肩を思いっきり掴む。10歳である英弘の体が壊してしまいかねない程の力で。


 「ヒッヒッヒッヒ! 儂らを恐れているのだとすれば、この膠着も納得できる! 後は英弘の言う通り、奴らを引っ張り出すだけのことよ!」


 だが、問題はそれをどうするかである。英弘は、それについての案は未だ持っていなかった。しかし、秀吉にはその案が浮かんだようで――。


 「そこでじゃ英弘! お主に頼みがある!」

 「は、はい……なんでしょうか?」


 英弘はこの瞬間、自らの失策に気付いた。この状況で頼みがあると言えば、即ち、面倒ごとに関することだろう。

 だが、それに気付いた時はもう遅かった――。


 「うむ! これよりお主に5人程兵を預けるから、バカ共を挑発して引っ張って来い!」


 秀吉に危険な任務を押し付けられてしまったのだ。

 言い出しっぺの法則である。


 「え? あ……う、ええ?」

 「ブルート! ブルートはおるか!?」

 「ハッ! ここに!」


 答えに窮する英弘を差し置いて、秀吉は持ち前の計算高さを活用し、英弘に最適な戦働きの機会を与えんとしていた。

 膠着状態から脱却し、且つ英弘に指揮官としての胆力を鍛えさせる。まさに一石二鳥の機会だと、秀吉は喜んだのだ。


 「ブルート。お主は今から、この英弘の与力となって働け。他に4人適当に選んでよこすが、お主がこの英弘を支えるのじゃ」

 「ハッ!」


 流れるように話が進む。

 近衛兵赤組のブルートは、秀吉の命令に疑問や不服の情を挟み込む余地なく、筋肉質な体とやや角ばった顔を微動だにしないまま、即答した。

 背中を叩かれ、ブルートの前に立たされた英弘は、その返事の迷いの無さに驚いく。こんな子供の部下にされて、なんの不満もないのか? という疑問とセットで。

 そんな強張った英弘に対し、ブルートは不真面目さが何処にも見当たらないその顔で、英弘に簡単な挨拶をする。


 「よろしくお願いいたします!」

 「あ、はい。よろしくお願いします……」


 21世紀の日本人らしく丁寧に返事をする英弘に、ブルートの表情がこの時初めて動いた。

 それでもピクリと、眉が動いた程度であるが。


 「いけません。部下である私にそのような態度はおやめください。私はともかく、他の部下が勘違いします」

 「あ、すみま……スマン! よろし……頼む」


 指摘され、アタフタと態度と口調を改める英弘に、ブルートは満足げに頷いた。

 その様子を見ていた秀吉は、即興の人選が当たり・・・くじだったことで満足気に頷く。


 「うむ! では行け!」

 『ハッ!』


 こうして、秀吉にブルートという部下を与えられた英弘は、秀吉の号令で敵の挑発という任務に従事することとなった。

 当初こそ、何で俺がこんなことを……とか、いきなり兵士を預けやがって! などと憤懣ふんまんに駆られていたが、しかしいざ任務に取り掛かることとなれば、その思考は面白い変貌を遂げる。


 「何か、秀吉に意趣返ししたいな……」


 と、任務を遂行する以上の付属価値を求め、思考を巡らせていたのだ。

 自身の馬の手綱を引きつつ、誰にも聞こえなかったその呟きが、広い戦場に霧散する。


 「ところで……」


 後ろから同じように手綱を引くブルートが口を開く。


 「ヒデヒロ……キルク様のことは、どのようにお呼びすればよろしいでしょうか?」

 「ん? んー……隊長でいいじゃないでしょう……ないかな?」

 「……分かりました。では隊長と呼ばせていただきます」

 「うん」


 英弘の答えは、ブルートの求めるそれとは違っていた。

 ネーム前世の名で呼ぶのか、それともあるキルク・セロと呼ぶのか……そう言った意図で質問したのだ。

 だが当の英弘が思考に耽ったまま、それに気付くことは無かった。特に聞き直すことでもないのか、ブルートはそのまま納得することにしたようだ。


 「では隊長、敵を徴発する策は何かお持ちで?」

 「ああ、それについては今思いついたけど……話すのは他の4人が来てからだ」

 「ハッ」


 英弘は思いつく。敵を徴発しつつ、秀吉に意趣返し出来る方法を。

 そしてそれは、秀吉によって追加された部下が到着してから、実行されることになった。

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