第7話
「この翼型の線に沿うように切っていけばいいよ。ただし、えぐっちゃうと、そのマスターは次のリブ切りでは使えない、いわゆるボツになっちゃうから気をつけてね。あとでやするから、少し外側を切るといいよ。」
線に沿って紙をカッターナイフで切るなんて、一見簡単そうである。ところが、実際に切ってみると、糊のせいか、このマニラ紙のせいなのか一回で切れずに薄皮一枚で繋がっているかのようになってしまった。今度はしっかり切ろうと力をこめると、綺麗に翼型の形に沿って切れずに線の内側をえぐりそうになってしまう。
紙をカッターナイフで切っているだけなのだが、真剣にやってみると難しく、翼型をぐるっと一周切り終わるだけで、二十分近くかかってしまった。
「おっ、切り終わったね。」
岸根先輩は自分のことを気にかけてくれていたのだと思うが、ちょうど切り終わったところで声をかけてきた。
「最後は、線の半分まで紙やすりで綺麗にやすったら完成だよ。」
「線の半分ってどういうことですか?」
ここまでの作業は、なんとなく分かるような作業だったが、今の言葉はすぐに理解できずに、つい聞き返してしまった。
「印刷してある線は実際には太さがあるでしょ?マスターは、その線のちょうど真ん中までやするっていうことになっているの。最初は240番の紙やすりでやするといいと思う。線に近づいたら徐々に600番とか1000番とか目の細かいやすりを使うようにすると綺麗にやすれるよ。」
言われるがままに、線の真ん中までやすりはじめた。これまで、紙を紙やすりでやするなんてやったことがなく、初めての体験だった。そもそも紙を切ることはあっても、やすりをかけようとは思ったことすらなかった。
紙の断面にやすりをかけると、力を入れすぎたせいか、紙の断面がボロボロになってしまって、こんな地味な作業が思ってたよりもずっと難しい。そのうえ、一気にやすれるわけでもなく、徐々に徐々に線に近づいてやすっていくので、この作業は時間もかかる。
「一旦、見ようか。ちょっと貸して。」
気がつけば三十分ほどやすったところで、岸根先輩が声をかけた。そして、やすっていた紙を受け取ると、紙の断面を指でなぞりはじめた。
「うーん。こことここに何かいるね。触ってごらん?わかる?」
指でさされた箇所を触ってみても、いまいちわからないが、たしかに滑らかじゃない。しかし、そんな指先で微かに判断できるかどうかの凹凸を判断するなんて、職人技としか思えなかった。
その後は言われたところが綺麗になるように、確認しながらやすっていき、合計一時間はやすっただろうかという頃に、再び先輩が声をかけてきた。
「今日は、もう遅いし、ここら辺で切り上げて新入生は帰ろうか?」
想像よりも自分たちで飛行機を作るという作業はずっと地味である。あと、おそらく自分には秘めたる才能とかもなければ、サークルでもあまり活躍できないかもしれない。
この日は、少し落ち込みながら、帰路についた。
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