第6話

 新歓ガイダンスの翌日、講義を終え、学食で夕食を食べた後に風間は作業場へ行ってみた。風間が作業場に着くと、翼が一本、作業場の外に出され、ガイダンスで見かけた先輩たちがなにか作業をしていた。


「あっ…あのー、昨日新歓に来たんですけど。」

 先輩たちがこちらを向いた。

「おおっ。二人目の新入生だね。」

 先輩が二人目といったので気になって作業場を見ると、机で二人が黙々と紙を紙やすりでやすっている。異様な光景だ。どうやら一人は新入生のようだ。風間に気づいたのか、紙をやすっていた一人が手を止め、入り口までやってくる。

「どうも岸根です。今日は早速作業をやってみようか?荷物は、そこらへんに置いて、入ってきなよ。」

 作業場に入っていくと、岸根先輩が道具一式を机の空いているスペースにもってきた。カッターとカッターマットと紙である。小学校の図工の道具みたいだ。

「じゃあ、今日はマスターの製作をやってもらいます。マスターっていうのは、翼の発泡スチロールのリブの型になるやつね。」

 岸根先輩が説明を続ける。

「最初は、この翼型の印刷された紙を、厚紙に貼ります。紙の周りの余白の部分を切ろうか。」

 渡されたA4の紙には、翼の断面の形が印刷されている。他にも、縦横に線が入っていたり、数字も印刷されている。かろうじて意味が分かるのは、270 mmというのは、この翼のサイズだろうということだ。

「えっと、ハサミってどこですか?」

「ああ、ハサミはほとんど使わないんだよね。基本的にカッターで切ってるんだ。ちゃんと刃は黒刃を使ってるよ。」

 黒刃が普通の刃とどう違うのかはよく分からないが、先輩がどことなく誇らしげなので、黒刃のほうが良いもののようだ。A4の紙をカッターで切るくらいなら、簡単なものである。大まかに切ると、岸根先輩が次の手順の説明をはじめた。

「次は切ったやつを、そのマニラ紙っていう厚紙に貼り付けるんだけど、そこにスプレーのりがあるから、それを使って、切った紙に糊を付けて。」

 糊は普段使うようなスティック糊は使わないらしい。スプレーのりは初めて使うが、使い方は想像がついた。しかし、スプレーをすると、明らかに一箇所に糊が付きすぎて、紙にはシワが入ってしまった。使い方は簡単でも、加減は難しいようだ。

「紙を貼るときは、翼型の頭からまっすぐ引いてある線と、マニラ紙に書いてあるまっすぐな線が揃うように貼る。」

 言われるがままに、貼り付けてみるが、頭の線は揃っても、しっぽの線は厚紙の線とは揃わない。結局、三回貼って剥がしてを繰り返して、ようやく紙に貼ることができた。

 貼り終えた紙は、糊の付け過ぎと貼り直しで、紙にシワが入り、すでに失敗感が漂っている。

「よし、次はカッターで線の通りに切ろうか。」

 なにも良くないが、このマスター作りはまだ半分も終わっていないであろうことは想像がついた。

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