閑話 真実《まみ》の教育方針

真実まみちゃんのことはもっとみんなに知ってもらうべきよ」

真実まみの天才児ぶりを知ったミキさんは数日置きにこの話を振ってくる。


「うーん、でもなー。それはちょっと難しいんじゃないかな」


「そんなことないわよ。

みんなに知ってもらえれば、理解してくれる人も増えるし、いい教育を受けられるようになるかも知れないわ。

それに芸能界デビューも夢じゃないわよ」


「でもねー、そんな必要もないと思うんだよね...」

消極的な良夫はいつも煮え切らない態度のまま議論は平行線を保っていた。


「良夫さん、真実まみのことでまだ何か隠してるでしょ?」

そんな均衡を今日のミキさんはずばっと切り崩してくる。


「そ、それはその、実はメールができるくらいじゃないんだよ」

良夫はもう尻に敷かれているので、問われれば答えざるを得ない。

それに実際、メールができる程度の天才児なら広く知ってもらうのも反対はしなかっただろう。


「怪しいわね。もういいわ。自分で調べるから」

こうなるともう止められない。

ミキさんが真実まみの元へ向かうのを眺める以外にできることはない。



「真実ちゃん、ちょっといいかしら?

真実まみちゃん、算数もできる?

そうなの賢いわね。

ちょっと簡単な問題を出してもいい?

それじゃ、1+2は?


そう3ね、賢いわね。

それじゃ、3✕2は?


そう6よね。さすがね。

なら6の平方根は?


2.4494...ああもういいわよ、真実まみちゃん。

ありがとう。


良夫さん、そういうことね。

よく分かったわ。

もっと本格的に検証が必要そうね」

ミキさんがこっちに厳しい視線を向けながらそう言うと、また真実まみの方に向き直り、本格的な調査を計画し始めた。


ばれた原因は簡単だ。

真実まみの演技が下手だからだ。

彼女は普通の子供の常識を知らないから、どれぐらいまでが同年代にとって簡単な問題なのかがわからない。

少なくとも彼女にとってはミキさんの出した問題は簡単だったのだろう。


天才児といっても対人関係を含め色々と実体験は乏しい。海千山千の弁護士相手が本気で調査すれば簡単に弱点が暴露してしまうことが分かっただけでも良かったのだろう。


そして、一度始まった本格的な調査は簡単には終わらなかった。

ミキさんによる調査は数週間続いた。


もうミキさんには完全にバレてしまったので、真実まみも全面的な協力を惜しまなかったが、それでも時間がかかった。

理由は単純に真実まみの頭脳を測るためにはそれだけ多くの準備が必要だったからだ。


本気になったミキさんは天才児ギフテッド教育用のテストを初め、数学、言語学、人文学、様々な分野の科学や工学、芸術に、心理テスト、さらには超能力の検査キットまでそろえ、系統立てた綿密な検査を行っていった。


その結果、真実まみの能力に関して以下の事実が判明した。

・数学は測定不可能なレベルで優れている(未解決の定理などの証明をされてもそれが正しいのか判断できないため保留)

・言語学もネット上の知識や自動翻訳が正しいならすでに日本語、英語、中国語、スペイン語をマスターしている(必要なら新しい言語も簡単に習得できるらしいがその必要もないので保留)

・文学、民俗学、芸術、文化や慣習といった分野は記憶力のよさでカバーしているが、まだまだ抜けや偏りがある(年齢が低いのでまだ経験していないことや抱いたことのない感情に共感することができないことが恐らく原因)

・思いつく範囲での超能力はないようだ(念力、透視、テレパシー、予知が出来ないことを確認)

・心理テストの結果、特に重いストレスを感じているようには見えない

・総合的に見て学習能力・理解力・解析力・記憶力がずば抜けているが、その中でも理解力が驚異的

・本来見つけることが困難な素数も一瞬見つけることが可能だし、暗号化されたデータの解読も同様に可能

・運動機能はかなり劣っている


「さすがにこれは公表できないわね。

良夫さんが心配していた理由がわかったわ」

(これはもう、ばれると危険なレベルの天才ね。

この能力があれば国家機密だって痕跡を残さず見れてしまうんだから。

まあ良くて監視・監禁、悪くて暗殺ってところかしらね。)


「そうでしょ、やっぱりミキさんもそう思うでしょ」

(なんせ、真実のほうが稼ぎがいいからねー。

正直バレたら児童労働させた容疑で労働基準法違反になるかもしれない。)


「ええ、実際の能力を公表はするのは無理だから、どうやって適度な天才としてごまかせるか考えましょう」


「えっ?それって必要?」


「良夫さん、考えてみて。このまま一生、真実まみちゃんを家に閉じ込めておくわけにもいかないでしょ。そのうち義務教育も始まるのよ。

他の子供や先生、親とのかかわりが増えれば、絶対どこかでばれるでしょ。

ばれないように義務教育期間中ずっと真実まみちゃんに演技をさせるのはものすごいストレスになるわ。

それなりの天才児っていう落としどころで、普通の子と違うのは当然って既成事実さえ作ってしまえば、下手な演技をしなくてもいいからばれる可能性は減るはずよ」

良夫は考えるふりをしていたが、ミキさんの言うことが正しいのだろうというのは何となく分かっていた。

義務教育に関しても真実まみに任せておけば大丈夫だろうと思っていたのだが、メールができることを打ち明けてからは思ったより簡単にミキさんは本当のことを探り当てたので、恐らく一度疑われてしまうと隠しきれないだろう。


「そうだね。

ミキさんの言う通りかも。

真実まみも含めて今後のことを話しあった方がいいかもね」


こうして、ミキさん主導で真実まみの教育計画が立てられることとなった。

優先すべきは可能な限り直接の接触が少ない環境、次に可能な限り真実まみが刺激を受けられるような教育環境と決まった。






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