第39話 外国人、失業する

「今回の契約が終わりましたら、次回の更新はしないことになりましたので、よろしくお願いします」


少し話がしたいと言って呼び止めてきた教頭先生は随分とあっさりとした口調でそんなことを告げた。

その話を聞いたALT(Assistant Language Teacher)のミーシャ・ジョーンズは最初何の話をされているのか分からなかった。まさか、自分が首になると言うそんな重要な話を、立ち話のついでといった軽い調子で告げられるとは思っても見なかったからだ。


今まで真面目に仕事をしてきたし、日本の文化に馴染めるようたくさん勉強もした。日本語も少しは話せるようになったし、同僚との関係も良好に保てている。

それなのに、こんなにあっさりと切られるとは信じられなかった。


そのため、後で先ほど教頭から告げられた言葉の意味を同僚に確認した。

同僚いわく、「ミーシャが一生懸命やってくれているのが分かっているから、契約を更新できない話をするのが辛かったんだと思うよ。さらっと言った方がミーシャも受け止めやすいと思ってそうしたんじゃないかな」とのことだ。

理解できないが、なんとなく「日本人的」なものがあるのだろう。


今までならその理解できない部分を理解できる様に努力していたが、今はそんな暇がない。

あと三カ月で仕事を失う。

他のALT仲間とも連絡をとり どこかで空きがないかを探し始める。


不景気なので民間の仕事は年々減って来ている。

そして、ミーシャは都会ではなく田舎の学校を希望したし、今も可能なら郊外か田舎の仕事が望ましいと思っている。

つまり、もともと近くには仕事が少なく、東京までいちいち面接に出るのは費用面でも厳しい。

最初から東京にしておけばもう少し仕事探しも楽になったかも、と悔やまれる。


アメリカに戻ると言う選択肢はほぼない。

いや、仕事が見つかれば戻りたい。

見つかる可能性がないから選択肢に入れていないだけだ。


アメリカの失業率は日本より高い。

政府がどんな数字を発表しようとそれは変わらない。

大学を卒業して2年半就いていた補助教員の仕事は募集していたとしても今更戻れるようなものではない。

親と一緒に住んでいたら可能かもしれないが、ミーシャの両親は離婚して別の州に引っ越してしまったし、仕事のつてもない。

安定した収入がないとアパートを借りることも出来ないし、住所がなければ仕事にも就けない。


卵が先か、ニワトリが先か。

田舎でなるべく節約して貯金を貯めてきたつもりだが、仕事探しのために 家賃の高い西海岸でホテル暮らしが出来るほどの蓄えはない。


友達のアパートに転がり込むことも考えたが、ミーシャも もう今年で30になる。

友達も同年代だ。

みんな結婚して家族がいる。

転がり込んで、ソファーで寝泊まりすればいいや、と気楽には考えられない。


だから、早く日本で次の仕事を見つけなくてはいけない。

英語ネイティブに対する求人を。

可能なら面接に行きやすい近隣の町で。

就労ビザの申請をしてくれるなら給料はとりあえず低くてもいいので。


そんな条件で仕事を探し、応募し、挫折することを何度も繰り返す。

焦りが募る中、だんだんと検索条件が緩くなっていく。

ハロワークサイトでも検索する。今度はもっと遠くまで含めて、今度はもっと田舎の方まで含めて。

そうするうちに、今いる町よりさらに田舎の町でいくつもヒットした。

いくつかはネイティブ希望と明記している。

給料や待遇も悪くないし、ビザの申請もしてくれるという。


まさか、そんな田舎に英語ネイティブへの需要があるとは思っていなかったが、早速いくつかチェックし、応募してみることにする。

それと、グーグルマップで上野町かみのちょうまでのルートも確認しておく。





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