第38話 解体工、修理する
「山さーん、2号機調子悪いっス。原点でねーっス」
「こまったな、信二君でも直せないか?メーカーも連休に入っちまっただろうしなー。一応会長に連絡入れとくか」
真実工房の社長に就任した山さんこと山中達也は 町長就任後 会長職へと移行した杉本会長へと連絡を入れる。
会長は
以前はCNCフライス盤のデータ作成までしてもらっていたので、頻繁なやり取りが必要だったが、町長就任後は3Dモデラーを雇い始めたので、最近は会長の手を煩わせるような事態はそれほど起きていない。
しかし、今回に限って 普段は5分以内に来る返信が30分経っても来ない。
「ごめんくださーい」
そんな時に来客があった。
工房内は動かないCNCフライス盤の遅れを最小限にとどめるため普段使わない手動のフライス盤を整備しようと慌ただしい状態だ。
「チーッス、なんか用―ッスか?今、CNCフライス盤が故障して みんなテンパってるんで 後にしてくれると助かるんスけど」
普段は絶対に来客対応を任せられないが、山中さんを含め他の人は全員忙しく、担当の機械が壊れて暇になった信二君が顧客対応を務める。
「そっか、忙しいならまた出直すわ。ところで、どのメーカーのフライス盤使ってんの?」
日雇い労働者として3年近くを過ごし、日本で一番危険と目される地域の一つに住んでいた鈴木亮平にとって信二君の受け答えはそれなりに丁寧なものに映っていた。
「オーヤマっス」
「あっ、オーヤマなんだ。モデルは?」
「3056っス」
「そうなんだ、故障ってもしかして原点でないとか?」
「そうなんスよ。よく分かったスね」
亮平はただの元日雇い労働者ではない。
と言うか、大半の日雇い労働者は何らかの過去を持っている。
誇れるものも、そうでないものも。
亮平の場合、誇れる方とは 大手メーカーの元社員と言うことだ。
一方、誇れない方とは、当時は結婚もしていたと言うことと、40を目前にしてリストラされたと言うことだ。
そこからの人生は すべて下り坂だった。
妻はほぼローンを払い終えたマイホームを持って離婚し、去って行った。
亮平は退職金を使い起死回生の一手と思い起業し、失敗した。
破産申告をした後は、地元の知り合いや元同僚などと顔を合わせ辛くなり、地元を去り最終的に大阪のドヤ街に落ち着き日雇い労働を始めた。
そう言う元日雇い労働者だから、誇れる過去である元オーヤマ社員が関わることに関しては口出しせずにはいられなかったのだ。
「3056なら、センサーのブラケットだんだん歪んじゃうから、原点合わせたかったらマニュアル補正しなきゃだめだよ」
「そうなんスか、なんか詳しいっスね?よかったらちょっと見てくれません スか?」
結局、亮平は元メーカー従業員であることを明かし、原点復帰が出来るよう修正を行った。
「いやー助かったよ。鈴木さんがおらんかったら納期が間に合わんところだったわ」
「そうっスよ。メチャ、タイミングよかったっス。ところで、何か用があったんスか?」
「ああ...そういや、忘れてたけど、近所に越して来たからその挨拶と、それにDIYでウッドデッキ作ろー思って、ノコ盤と旋盤借りれへんかと思て来てんけど、ダメやろか?」
「なるほどー、あんたか、あの外れの家に越して来たんわ。なんや、トラックで色々運んでるって噂になってたけど、リフォームしてたんか。
にしてもメーカーの人が近所にいてくれるってのは心強いもんや。鈴木さん、ノコ盤と旋盤だけやのうて、この工場にある機械ならなんでも使ってくれてええからな」
こうして亮平は真実工房の小さな危機を救い、その社長から機械の使用許可を得ることとなった。
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