第37話 解体工、リフォームを始める
「鈴木さんもどう?この後軽く飲みに行かない?」
仕事終わりに同僚が誘ってくれた。
「いや、ゴメン。この後、運転するから」
「えっ、あ、そーか、鈴木さんは定住組だっけ」
日雇い労働者と言うのはいかにも呑兵衛が多そうに見えるが、付き合いと言う点においては希薄で一緒に飲みに行くことはもともと少なかった。
今は社員なのでこうやって誘ってもらえることもあるが、定住組は別枠として認識されているので誘いを断っても角が立たない。
ちなみに8人の従業員と13人の日雇いで構成されているが、定住組は3人だけだ。
しかもそのうちの一人は地元採用だ。
会社からすると定住してくれた方が出張費や宿泊費などを削れるし、長期間同じ人にいてもらえるので出張組よりもローテーションに組み込みやすい。
多少給料を増やしてでも定住組を増やしたいようなのだが、労働人口が圧倒的に不足している田舎町のため難しいようだ。
この
だから効率が悪くても日雇いを出張で派遣してもらっているのだ。
とはいえ、それでも利益が出ているので問題ないのだろう。
最初のうちの作業はほとんど仕事で行っていることと同じで、不要なものを解体し捨てることだった。
腐った畳、廃棄。
割れた床板、廃棄。
蔵にしまわれていた日本人形、御払い。
電源を入れてもウンともスンとも言わない洗濯機、廃棄。
段ボールに詰め込まれていた虫食いのある衣服、売却もしくはウエスとしてリサイクル。
ガタつくテーブル、修理。
蔵の中も必要のないモノを処分すると大分すっきりとした。
ただ、同時に仕事でゲットした廃材リサイクル品で埋まって行くため、そのすっきり感は長続きはしない。
この解体と廃棄の段階を終えると、次にリフォームの優先順位を付けることを始めた。
リフォームで一番心配だったのは基礎や柱に問題のあることだったが、床下を這いずり回って調べてみた限りではシロアリなどはいなさそうだ。
ただ、動物の糞は多く落ちていた。
これは床下を見るまでもなく分かっていたことなので驚きはない。
夜中に屋根裏を何かが走っている音がするので、恐らくネズミはハクビシンなどがいるのだろうと考えていたからだ。
害獣駆除はリフォームの優先順位としては一番ではないので、とりあえず役場から借りて来たゲージ式の罠を仕掛けるだけにとどめておいた。
基礎の次に優先順位が高いのは、エアコンだ。
そろそろ夏に差し掛かる時期となっており、エアコンなしで乗り切れるとは思えない。
この家にはすでにエアコンが取り付けてあったが、電源を入れても動かないものが一台と動くけれどかび臭くなるだけで温度に何の変化もないものが一台あるだけなので、早急な対策が必要だったのだ。
取り外しは自分で行う。
少なくとも動く方のエアコンは内部のガスを室外機に送り込んでからバラす。
これは解体工として覚えた作業手順だ。
取り付ける方はしたことがないのだが、解体の仕事で取り外したエアコンがあるので失敗しても懐は痛まないことから自分でやってみる。
室内機の取り付けは簡単に出来た。
壁の穴はすでに開いているし、電源の確保も問題ない。
室外機の設置も特に問題はない。
以前あった室外機の場所に置けばいいだけだからだ。
問題はそれらをつなぐ工程にある。
銅管2本で室外機と室内機をつなぐのだが、この柔らかい配管を手で曲げようとすると配管が折れ曲がり、潰れてしまったのだ。
二度目はゆっくりと弧を描くように曲げてみるがそれでも配管がカックンと折れてしまう。
折れた配管のリサイクルは不可能と断念し、配管の
工具が来た後はすんなりと工事は進んだ。
配管内のエア抜き用に必要な真空ポンプは買わずに借りて済ませることが出来たので、配管を買い直した分を入れても2台のエアコン設置にかかった費用は1万円以下に押さえられている。
まあ、無料でエアコンを手に入れられたことが大きいわけだが、暑苦しい週末に冷たい冷気を感じられるととても達成感がある。
これで亮平はDIYにはまってしまった。
職場で様々な廃材を簡単に手に入れられることと、広く勝手に工事してもよい持ち家、夜遅くまでうるさくしていても誰にも迷惑にならない遠く離れた隣近所、そして文句を言う家族やパートナーが存在しない家庭環境。
すべてが理想的にそろっていたため、部屋単位でしっかりと養生して、壁の塗り直しや、天井を剥がして抜き天井にしたり、畳からフローリングへの工事を行ったりと大掛かりなDIYまで行うようになった。
そうなると工具も色々とそろえる必要があるが、どうしても大型の機械は高額になってしまうので手が出ない。
無くても何とかなるが理想の形には出来ない。
そこで裏庭にウッドデッキを作る際にはテーブルソーや旋盤などを借りるため、ようやく近くの木材加工店を訪ねることにした。
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