第30話 六月議会
議会と言うのは話し合いの場だが、新参の町長、しかも新参の町民で政治経験もない良夫にとってはそこはベテラン議員たちから注目され、公式に問い詰められる針の
とても気が重く議案に目を通しても頭に入ってこない。
それでも例の訳の分からない町長提案に関しては
議員たちの説得は無理だろう。
14人いる町議員のうち元町長の陣営に属する4人は何とか支持してくれそうだが、反対派4人と改革派2人、そして独立系3人に共産1人は、最初から賛成してくれることはないはずだ。
それなのに新しい町長職に就いたばかりで時間もなく、口頭コミュニケーションが苦手で、ようやく議員たちの名前と顔を一通り覚えた程度の良夫では根回しなど出来るはずもない。
ちょうどその後、阿久津議員に廊下で会ったので話しかける。
「あの、阿久津議員、少しよろしいでしょうか?」
「ん、なんだ、杉本君か。どうだね、苦労も知らずに得た町長席の座り心地は」
話しかけると顔をしかめて返事をしてくれた。
「ええ、まあ、居心地がいいとは言えないですね。ああ、そう言えば奥様の彩子さんの調子はいかがですか?」
そう言うと、阿久津議員は急に顔を真っ青にし、周囲を神経質そうに見渡し始めた。
「え、えっ、えーと、誰のことかな。妻の恵美なら元気にしとるよ。は、はっ、はー」
真っ青な顔をして汗をダラダラたらし始めた議員にとても申し訳なく感じる。
「すいません。すっかり、勘違いしておりました。面目ない」
「いや、町長、頭を上げて下さい。全然、問題ありませんので。私は町長のことをとても買っておりましてですね。今度の議会もぜひ頑張って欲しいと思っておりますのですよ」
何だかぎこちない話し方でそう告げると、急いで去って行った。
どうやら具合が悪かったらしい。
ただ、運よく反対派にしては支持を表明してくれたので期待が出来る。
ただ、議会の前の一週間ほどは他にも『ダムに関して変なメールを受け取ってないか訊いてみて』とか『津田モーターズの青沼社長を紹介してもらえないか訊いてみて』など、政策とまったく関係のない世間話の様な事ばかり指示をされていたので、根回しはまったくできなかった。
そんな準備不足で挑んだ六月議会だったが、幕を開けてみると拍子抜けだった。
町長提案はすんなりと賛成多数で通ったし、新参者に対する嫌がらせもなく、みんな突然の町長就任で大変だろうけれど頑張ってほしいと応援してくれた。
田舎の人間はよそ者に対して厳しいのではないかと勝手に思い込んでいたが、少なくとも
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