第31話 三好ミキ、教育方針に意見する

「もっ、もっ」

「そう、偉いわね、もっと欲しいのよねー」

真実まみちゃんはいつもわたしと二人の時はこうやっておしゃべりしてくれる。

もう喃語なんごではなくしっかりと何かを意図して伝えようとした言葉だ。

たどたどしいので、しっかりとした会話が成立するわけではないが、こちらが話していることを思った以上に理解できているようで、たまに驚かされる。


だが、それは二人の時だけだ。

良夫さんが一緒だと真実まみちゃんはお話ししなくなる。

別に良夫さんが真実まみちゃんに愛情を注いでいないと言っているわけではない。

むしろ、その逆だ。

とても愛しているのは見ていて分かる。

最近急に町長と言う重要なポストに就任してしまったが、それでも今まで通り真実まみちゃんと一緒にいるために仕事にも連れて行っている。


新しい町長と言うこともあって、風当たりも強いだろうに批判を恐れず、行動するのはとても勇気のいることだ。

そういう所は素敵だと思う。


とても口下手なのにたまにものすごく積極的。

自分で『君にとても会いたい』とかラインしてきたと思ったら、会った途端第一声が「いつもお世話になっています」だった時にはどうしようかと思った。

よくお付き合いするとことまで発展したものだと思う。


それはともかく、良夫さんが真実まみちゃんといる時、真実まみちゃんはいつもiPadで遊んでいるし、良夫さんは真実まみちゃんに話しかけるけど、その内容は町の税金についてだったり、全く子供と話す内容じゃなく、ほとんど独り言のようなことだ。

その上、真実まみちゃんの反応を確認するでもなく、自分のスマホを見ていたりと、教育方針に関しては疑問を持ってしまう。


口を出すべきではないのだろうと思うが、ある日とうとう言ってしまった。

「良夫さん、みんなで食事をしている時はスマホを置いて。しっかり、真実まみちゃんの方を向いて話しかけてあげて」

「あっ、ゴメンなさい。今、真実まみとメールしてて」

「もう、良夫さんたら、真実まみちゃんが賢いのは分かってるけどまだメールなんて出来るはずないじゃない」

するとその時ちょうど間の悪いことに、わたしのスマホに着信があった。

少しためらったが、良夫さんがうながすので、確認すると。

『みきさん、ぱぱおこらないで』とあった。


「えっ、これって!良夫さんのイタズラ?」

「違うよ、ほら僕のスマホはもうテーブルの上に置いてあるだろ」

真実まみちゃんの方を向くとiPadを操作し終え笑顔で私の方を向く。

『ほんとだよ。まみ、めーるできるよ』


「...すっごーい!!!真実まみちゃん、本当にメールできるの!天才じゃない」

良夫さんはもっと早くカミングアウトしたかったけど、どんな反応をするか怖くて言えなかったのだと、謝ってくれた。

もちろんわたしはそれを許し、それからは三人そろうとわたしと良夫さんが口頭で話し、真実まみちゃんがメールで返事をすると言う食事風景に変わった。


もう少し慣れたら、漢字の読み書きも教えてあげようと思う。








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