第18話 ネット販売

真実まみと山中さんが試作品作りに没頭している間、私はネットでクラウドソーシングサービスに登録をした。

要は自分の足で営業をしなくても仕事を取れるサービスだ。

今までそういった仕事をしなかった理由は、ベテラン翻訳家からすると馬鹿らしくなるくらい単価が安いからだ。

それでも背に腹は代えられないので安い仕事をコツコツこなし、評価をあげようと頑張ってみる。


もちろん、仕事の合間には雑草だらけの裏庭と畑をなんとか見れたものにしようと草抜きや草刈りや除草剤散布(裏庭のみ)を行ったが、片手間でなんとかなるほど狭い畑でもなかったので作物を植えることは断念した。

来年、リベンジする予定だ。


私がそんなことをしている間に、試作が完了し、店舗ページが大手ECサイト内に立ち上がっていた。

出荷が始まると手が足りなくなるから女性のパートも雇うので一応顔を見せて欲しいと頼まれている。


サイトを見るとかなり強気な価格設定をしているが、その分、商品の詳細な情報を提供して魅力的に見せている。

様々なアングルからの写真に加え、木材の種類、採れた場所、加工者の履歴まで明記(許可はもらっているようだ)されている。

いつの間にかSTマークの審査も通したようでラベルまで貼られている。


ただ、元オーナーの山中さんはいい歳したおじいちゃんだ。

梱包に関してはまったくセンスがない。

ダンボールに緩衝材と製品を詰めて納品書を添付するという基本はできても、それでは高級な商品には見えない。

今の時代、顧客満足度という名の評価ポイントが売上の鍵を握っているのだからこれではダメだ。


そこを改善するために女性のパートが必要になったそうだ。

もちろん梱包だけでなく工場の清掃、写真撮影、手書きのメッセージなども行ってもらうという。


サイトを立ち上げたからと言ってすぐに見てもらえるわけではないので、しばらくは暇な日が続くのだろう、と思っていたが、そんなこともなさそうだった。

私は別に何も手伝っていないので暇かどうかは直接分からないのだが、毎日運送屋が家の前に停まるので結構忙しいのだろうと思っているだけだ。


サイト立ち上げ前にすでにプレスリリースが様々な方面へとばらまかれていたようだし、町役場や近隣都市の商工会議所にも根回しは住んでいるそうだ。

そういったことは弁護士の三好先生が来て話してくれた。


開業に際しての登録や税務に関するアドバイスをわざわざしに来てくれたのだ。

真実まみからの相談なので、私に回答されてもどうしようもないのだが、税務にかんしては工場の収入も私のものになるため知っておく必要もありそうだ。


こういったことは苦手なのでどうしようかと考えていると、どうやらすでに彼女は顧問弁護士になることに合意してくれていて、丸投げしてもいいようだ。


税務の難しい話が終わった後は軽い雑談になったのだが、その際にインフルエンサーを使ったステルス・マーケティングなどに関する法律上の注意点などを話してくれた。

そんな話をなんでするのか最初はわからなかったが、どうやら真実まみのPR戦略は思ったより本格的なもののようで、子持ちかつ一定数以上のフォロワーを持つインフルエンサーや芸能人に無料で商品を提供しているのだという。


特に子供のおもちゃのケバケバした色がインテリアにあわない、ごちゃごちゃして見えると過去に少しでもSNS上で匂わせたことのある人やインテリア等の趣味が特別マッチしている人に個別アプローチを掛けて話題作りに成功しているという。


すでにSNSアカウントもできていて、フォロワーも獲得しており、顧客レビューも製作者にフィードバックできるようになっているという。


正直、何をやっているのかわからないが、弁護士の先生が違法なことに手を出すとは思えないので、先生さえわかっているなら問題ないだろう。

自分で考えることはもう諦めた。










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