第17話 操業開始

上野町に引っ越してから2ヶ月ほどが経ち、真実まみが2歳になった。

この一年でたくさんのことが起き、亡くなった妻に関しての気持ちも大分整理出来て来た。

だから、今年はささやかながら二人でバースデーパーティを開いた。


プレゼントは何がいいか考えたが、本人に聞いたら工場の整備を手伝って欲しいと答えた。

そりゃ、父ちゃんより稼ぎがいいし、ネットで買えるものより本人が出来ないことをして欲しいというのは分かるが、それだけだと私の方が納得行かなかったので、赤ちゃんでも食べられるケーキを手作りしてあげた。

離乳食の一環だが、糖分やら健康に悪そうなものが控えめなヨーグルトを脱水したケーキだ。


そしてその後、工場へカメラやマイクなどの取り付けを行った。


元オーナーの山中さんはあれから何度か来てくれていて、CNCフライス盤の試運転などを行ってくれていた。


操作方法が書かれたプリントアウトとiPadは最初から山中さんに渡してあるが、どうやら触って覚える性格の人らしくあまり読んでいる様子はない。

使いこなせているならいいのだろう。


流れとしては私を装った真実まみから設計図がiPadに送られてくる。

山中さんはその寸法に合った材料を機械へセットする。

データはPCからフライス盤へ直接送られるらしく、セットが終わると自動で加工が始まる。


それだけ聞くと誰でもできそうだが、実際には刃物の取り換えや材料の向き、材質の種類さ状態など経験値が物を言うので試作は山中さんに手伝ってもらう必要があるのだという。


マイクをセットしたのはタイプしてもらうのは無理そうだからだ。

設計図通りに作るのが難しい場合など、勝手に愚痴ってくれるので、それを真実まみが聞いてリアルタイムで製図し直すらしい。


正直あまり関わっていなかったのだが、いったい二人して何を作っているのか気になったので聞いてみると大体4種類くらいのものを作っているようだ。


一種類目は真実まみ専用の道具だ。

大きな頭を支えてくれる歩行器や椅子などに取り付ける補助具と言った感じのものだ。


二種類目は知育玩具だ。

中をくり抜いた無垢材のオーボール(中空で骨組みだけのボール)のような物の失敗作が工場に転がっていたのは強度と軽さを両立するのが難しいかららしい。


聞いてて思ったが木で知育玩具を作るというのは理に適っている。

子供はなんでも口に入れてしまうので、自然な無垢材で出来た玩具を欲しがる人は多いだろう。


それに、着色していない無垢材の色はシックな家の家具とも馴染むので、子供のおもちゃでごちゃごちゃして見えるのを嫌うオシャレな夫婦にも受けそうだ。


正直、木製のオーボールはオブジェとしても成立しそうだ。


他にもただの丸いボールもたくさん作られている。

これは機械を試すために作ったのかと思ったが、そうではなく表面の処理方法(焼きを入れたり、ペーパーをかけたり)と木材の種類を組み換え、触覚や嗅覚を鍛える玩具だという。

木材の種類が違うとかすかに木材の匂いも異なるらしく、普段鍛えることのない感覚を刺激するのだという。

盲目の子供用の玩具としてもニーズがありそうだ。


三種類目は子供用家具だ。

玩具と同じ理由からニーズはありそうだ。

丸太風の椅子などアウトドア好きの夫婦なら子供用に買いたくなりそうだ。

 

四種類目は子供用品の小物だ。

木製スプーンなどを作ってみたようだが、この分野は競合が多いので力入れていないらしい。


工場の片隅には木目と子供をテーマにしたブランド名とロゴの焼きごても3種類ほど並べられていて、随分本格的な商売をするつもりなのだとこの時始めて気が付いた。

山中さんは私が注文したと思っているので、驚きを隠すのが大変だった。





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