第15話 工場
次の日、元オーナーと町の役人をともない弁護士の三好先生が朝からやって来た。
「杉本様、こちらが元オーナーの山中様で、こちらが
「杉本です。よろしくお願いします」
先生は簡単に紹介をしてくれ、これまでに締結した契約の内容や申請した補助金の内容を軽く説明してくれた。
いわゆる引き継ぎと言うやつだ。
「どのような事業を考えておられるのでしょうか?」「何人ぐらいの雇用が見込めるでしょうか?」
役人の熱意がすごい。
何やら不穏な空気が漂っている気がする。
先生の方もそうだったが、みんな私が工場を再開する前提で話が進んでいる気がする。
「えーと、少しすみません。娘のオムツが湿って来たので交換してきますね」
逃げの一手を放ち、みんなを縁側に残し奥へと入る。
「
『工場を再開して、赤ん坊のために無垢材の玩具を作りたいという、言い訳はどう?』
「言い訳って...でも本当に再開して大丈夫なの?俺は何にも出来ないよ」
『大丈夫、私の方でほとんど準備出来てるから」
とりあえず機械を動かせる人を雇う方向で考えているらしい。
まあ、家と工場を買ったのは娘だし(私名義だけど)、好きにさせてあげてもいいかと思う。
それに娘の体型に合わせた特注の家具なども作れるならそれは喜ばしいことだ。
とは言え、良夫は学校の工作すらろくに完成させられないくらい不器用なので手伝いをする気はない。
ちなみに、
もともと、日本語で話しかけて英語で打ち返して来ていたので、理解できていることは知っていたが漢字を読み書きできるとは思っていなかった。
よく考えると弁護士の先生と連絡で来ている時点で当然なのだが。
縁側で待っていてくれていたみんなのもとへ戻ると、適当に話を合わせる。
「では、工場を案内しましょーか」
元オーナーの山中さんが歳を感じさせない動きで立ち上がり、みんなを率いて案内を始める。
彼は現在娘さんの住む隣町に奥さんと一緒に住んでいるそうだ。
後継ぎがいないので、もうこれ以上会社を経営できないと判断して廃業したらしい。
木材は値崩れしているしあまり無理して続けて借金を作ると子供や孫に迷惑がかかると早めに判断したのだという。
ただ、引退して1年も経つと暇で暇でしょうがなくなってしまったようで、工場を再開したらそこで働きたいそうだ。
「バンドソーは売り払っちまったが、他の機械は大体残ってるぞ」
機械類はどれも年季が入ったものばかりだったが、山中さんがいつか工場を再開できるようにとしっかりメンテナンスをしてくれていたようで使える状態にあるようだ。
まあ、別に使う予定はないのだがという言葉は飲み込む。
ここには一台だけその場にそぐわない感じの機械があった。
「この新しい機械は...」
「それがあんたが注文したCNCフライス盤じゃよ。一応、設置にきた業者から説明は聞いといたがパソコン使うくだりはさっぱりわからんかったよ」
なるほど
どうするつもりなのかさっぱりだが、何とか出来るのだろう。
「...ですよね。パソコンの方はこちらで分かるはずなのでお任せ下さい」
こうして、元オーナーはフルタイムでは無理だが、暇を持て余しているので空いているときに来てくれることになった。
元従業員も同年代で引退しているものばかりだが、同じように暇をしているのでよかったら使ってほしいとのこと。
とりあえず、事業が軌道になったらそれも視野に入れていますと言うと、それ以上は何も言わず引き下がってくれた。
本当にどうにかなるんだよね?
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