第10話 不況

娘は自分でバンボを買ったが頭が重いのでしんどい様子だった。

だから座椅子を使い背もたれで頭を支えられるようにしてあげた。

真実まみの状況にピッタリのグッズがないためいろいろと工夫は必要だが、その手間の分、父親として必要とされているように感じられて嬉しい。


それはともかく、前回のネットショッピング事件以来、特に大きな問題もなく年を越すことができた。


いや、大きな問題がなかったのは娘に関してだけだ。

私の仕事に関しては大きな問題が起きていた。


例年、年末年始はかきいれどきで翻訳の仕事は多いはずなのだが、自動翻訳の進歩が関係しているのか仕事の量が少なかったのだ。


この調子で行くと、閑散期には大幅に収入が減ってしまう。

自動翻訳に勝てるだけのスキルはあるので、営業さえすれば仕事は取れると思うが、そうなるとどうしても上京する必要がある。

子連れでできることではない。


反対にさらに少なくなった収入のままで暮らすにはもっと安いところに引っ越す必要がある。


家賃が安く、それでいてインターネットにはしっかりとつながっている必要がある。

仕事が減ったので時間はあるから、食費を浮かすために家庭菜園でも出来るかもしれない。

それなら、畑付で一軒家を借りられる田舎の物件なども魅力的だ。

ただ、田舎の物件は遠いし車がないと下見に行くのも難しい。


そんな考えごとばかりしていたらブツブツと独り言が増えてしまった。


真実まみもそんな言葉を聞きつけたのか、一緒になって田舎の物件を探してくれる。


『Which would you like?』

いくつか物件のファイルを送ってくれて、「どれがいい?」と聞いてくれたりもする。


実際には彼女が送ってきたのはどれも賃貸ではなく購入物件なので、資金繰りに困って田舎に引っ越すという本来の趣旨とは合っていないのだが、一緒に考えてくれていることが嬉しい。


私が考える物件とは賃貸で月に数千円のレベルのものだ。


彼女は子供らしく見た目や広さで探しているのだろう。

数千万という桁の違う物件ばかりだ。

これはこれで非現実的ながら夢があるので見ていて楽しい。

「住むならこれかな」と、畑付きで敷地面積の広い、脱サラ向け物件を選んで返信しておく。





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