第9話 FX

1歳半にしてようやく腰が座り、おすわりが可能になった。


喜ばしいことだが、私はそれどころではなく玄関に積み上がった段ボール箱の山を見下ろしていた。


最新デスクトップPC、モニター、小型キーボード、小型トラックボール、バンボ(赤ちゃん用の柔らかいイス)、ローテーブル、などなどだ。


真実まみ!また、やったのか!?」

珍しく声を荒らげて良夫はiPadに向かう赤ちゃんへと詰め寄る。


『It's OK. Check the balance.』


良夫のスマホにメッセージが届く。

ご丁寧にネット銀行のURLまで貼られているので、クリックして確認する。

すると、良夫の残高が増えている。

それも一桁。


「えっ、何?これ、どうなってんの?」


『I earned and used it.』

そう、で稼いだお金を使うときには許可が必要だと教えたのだ。

まさか一歳になったばかりの子供がお金を稼げるとは考えていなかったからだ。

間違ったことはしていない。


「そうだな。確かに父ちゃんが言ったことを守ってるな。でも...ちなみに、どうやって稼いだんだ?」


別に自分より割りのいい仕事を見つけたなら教えてほしいとかそういうことではなく、悪いことをしていないかが気になっただけだ。


「I gained leverage by short selling in developing countries...」

色々と説明してくれたが、娘の回答は全然理解できなかった。大まかに言うと投資で稼いだようだ。

理解できたところで自分に真似はできない分野だ。



「う~ん、なんとなく分かった。悪いことはしてないならいいや。でも、今度から何か買うときは父ちゃんに相談してね」


とりあえず、見栄を切ってわかったふりをしておく。

それに、突然のことで驚きはしたが、娘は約束を破っていないとなると、娘が必要とするものを買ってあげていない自分の方が悪い気がしてきたのだ。

何もしてあげていないから、自分でしてくれているのだ。

そんな状況では怒るに怒れない。


とりあえず、借金をしないことと、何かを買う前に事前に相談することだけ約束してもらった。



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