第11話 家購入

『I bought a house for us.』

そんなメールが写真付きでPDFの物件ファイルと共に真実まみから送られてきた。


「ど、ど、どういうこと、家買ったって!?」


パソコンやらなんやらを買うのと家を買うのとではわけが違う。

ネットでポチッと購入できるものじゃない。


とはいえ、家を買った経験があるわけでもなく、何をすればいいのかも、どういう手続きが正しいのかもわかってはいない。

ただ、アパートの引っ越しでも事前に下見をするのだから、それ以上のプロセスがあるに違いないと推測しているだけだ。


『Don't worry. It's all paid. Just tell her "はい".』


支払い済みだから心配しなくてもいい、って部分もツッコミどころ満載だが、herって誰?

と思った矢先に、電話がかかってきた。


「三好法律事務所の代表三好ミキと申します。杉本良夫さまでしょうか?」

「は、はい、そうです」

「はじめまして。この度は上野町かみのちょう物件購入の代理人としてお選びいただきありがとうございます」

「は、はぁ」


テンポよく話される彼女の説明は分かりやすく、良夫は「はい」というより「はぁ」と返事をするだけで精一杯だった。

文章ならともかく口頭でコミュニケーションを取ることが最近はほとんどないため、それ以上の言葉が出てこないのだ。


ともかく彼女の話しているのは先ほど真実が送って来たPDFの物件についてであることはわかった。

物件の下見や価格交渉、地権者や書類に不備がないことの確認からリフォーム業者の手配まで全てを行ってくれていることも。

その上、自治体への補助金申請、電気ガス水道にインターネットの契約と言った物件購入と直接関係のないことまでしてくれているらしい。


弁護士などと関わったことがないので、いったいどこまでが通常業務範囲なのか分からなかったが、それだけのことをしてもらうためにはそれなりの報酬を支払う必要のあることくらいは分かる。


ただ怖くてそれがいくらになるのか訊くことはできない。

そして、彼女の方からは報酬についての話はなかったので、一体いくら払って彼女のような優秀な弁護士を雇ったのかは分からずじまいだった。


分かったのはリフォームに3ヶ月ほどかかるので、入居できるのは4月頃になりそうだということと、いろいろと書類を送ってくれているらしいのでそれにハンコを押してほしいということだけだった。


電話を終えた良夫はしばらく口を開くこともなく放心状態に陥った。

多すぎる情報で脳みそが悲鳴を上げていた。


持ち家の購入?

弁護士が代理人?

お金はどこから?

何県に行くの?


それより勝手に購入してはいけないと約束した...いや、相談してくれたか。

それに、お金は自分で稼いだ分は好きに使ってもいいと言ったのは自分だ。

こんな大金をどうやって稼いだのか知らないが、彼女が自分で稼いだのなら真実まみは何も約束を破っていないことになる。


そう気づくと、この家を買うポジティブな側面が見えて来る。

庭付きの広い家なら公園に連れていけなくても運動させてあげられる。

自分の仕事はネットがつながっていればどこででもできるから別に問題ない。


少し時間を置いて頭を冷やすと、もともと流されやすい良夫はまあこれはこれでいいかと言った気分になってきた。


「念の為、確認するけど、その、お金はあるんだよね?」


『Of course. And it's all legit too.』


次に訊こうと思っていたが、に稼いだお金であることも大切だ。そうじゃないと、監督者責任で自分が捕まることになる。

というか、赤ちゃんがネット金融犯罪を犯したと主張しても誰も信じてくれないだろうから、自分が犯罪者として捕まることになる。


「まあ、それならいいけどね。頼むから違法な仕事はしないでね。父ちゃん捕まりたくないから」



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