第2話 父子家庭
娘の頭が他の子より大きいことは生まれる前から分かっていた。
嫁のお腹の中にいる時に医者にそう告げられたからだ。
おろすことは考えなかった。
いや私は考えたが、嫁は考えなかった。
だから、私は自分の考えを口に出さなかった。
結局、帝王切開の後、嫁は感染症で他界した。
それでも残された私に悲しむ暇は与えられなかった。
嫁を死なせた私への風当たりは強く、嫁の親戚からは縁を切られた。
私の両親はすでに死んでいていないし、他の親戚は頭の大きな奇形児に関わるのを嫌がり、距離を置いた。
子育てをしながら会社勤めは出来ないので、育児休暇を取得した。
勤めていた翻訳会社の上司は同情してくれ、色々と親身にサポートしてくれたおかげで助かった。
それでも半年が経つころに経験したあの一言をきっかけに私が復職する可能性は限りなくゼロに近づいた。
娘を保育園に預ける気が無くなったからだ。
私の仕事のことより、みんなに娘が奇異の眼で見られることの方が嫌だったのだ。
当然、お世話になった上司には自分の心境を素直に告げた。
上司は残念だと言ってくれ、独立してフリーランスとして仕事をすることを勧めてくれた。
その後、私はその助言通りフリーランス翻訳者となり元上司から仕事を回してもらうことになった。
当然、収入は減るので出費を抑える必要はあったが補助金も出たのでなんとかなりそうだった。
フリーランスだと顧客から直に仕事を受けるわけではないので、外出する必要はなく、家にこもって仕事が出来るため、その時は理想的なライフスタイルだと感じていた。
急ぎの仕事が来た時は赤ちゃんの世話を後回しにする時もあったが、それでも自分で言うのもなんだが翻訳者として優秀な部類に入る私の実力からすれば、十分こなせる仕事だった。
翻訳に限っての話だが。
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