第80話 閻魔大王

金田一

「よし、次は誰かな?」


司会

「なんと、あの閻魔大王がこられてますよ。なんか緊張しますね。それでは閻魔さんお入り下さい」


閻魔

「はじめましてだな。よろしく頼むとするか」


司会

「いやー、さすが噂に聞く閻魔大王ですね。入ってくるなり会場内が威圧感に包まれました」


閻魔

「まあ、そう緊張することはない。お互い審議する立場だから『同業』と言うことでよろしく頼む」


司会

「わかりました。早速ですが今日は何を提訴されますか?」


閻魔

「なんといっても『地獄の沙汰も金次第』だな」


司会

「これは政治家なんかがよく使いますね。ワイロさえ払っておけば悪事をしてもバレなくて済むと言うような意味ですよね」


閻魔

「そうだ。まあ、金さえ払えばなんとかなるという意味だ」


司会

「これに何か不満があるんですか?」


閻魔

「不満も何も、最近は地獄もコンプライアンスとやらがうるさくなって、賄賂どころかお中元やお歳暮等も受け取れなくなってきた」


司会

「そうなんですか、地獄も大変なんですね」


閻魔

「そうだ。昔みたいに金次第で好き勝手に判決を決めれなくなった。ギスギスした世の中になったもんだ」


司会

「えー、じゃあもし私が地獄に行った時、閻魔さんにお金払っても情状酌量はないんですか?」


閻魔

「当たり前だ。時代が変わったとさっき言ったであろう。飲食接待もダメじやからな、肝に命じるように」


司会

「はあ、しかしもしも無理矢理、お金を渡したらどうなるんですか?」


閻魔

「ワシが『悪事を働いた』として間違いなく地獄送りになるな。場合によっては舌を抜かれてしまう。さぞかし痛いじゃろうな」


司会

「閻魔さんの今の立場はよくわかりました。ということは今日の提訴内容は辞退てすか変更ですか?」


閻魔

「辞退でも変更ではない、抹消だな。ことわざの抹消を希望する」


司会

「抹消?辞退でも変更でもなく抹消ですか?これは初めてのケースです」


閻魔

「考えてもみろ。このことわざのおかげで、毎日罪人が金を持ってきてワシに『罪を軽減しろ』と列をなしているんだぞ。受け取ったら犯罪者になるワシにとってはこのことわざは大迷惑なんじゃ」


司会

「なんか追い込まれているみたいですね。金田一先生よろしくお願いします」


金田一

「まず『地獄の沙汰』とは、死んだあとの閻魔さんの裁きのことを指します。生前の悪行に応じて、さまざまな地獄へ落されるという民間信仰は古くから信じられてきました。このことわざの意味は『閻魔さんの裁きでさえ金で買うことができる』つまり、金の威力を揶揄する意味で使われています」


閻魔

「そうだ。しかし今言ったとおり時代が変わったから抹消してほしい」


金田一

「閻魔さん。まず厳しいことを言いますが、抹消はできません」


閻魔

「なぜじゃ?これほどワシが頼んでも無理か?」


金田一

「理由は、このことわざは江戸いろはカルタの『ち』に既に使われているからです。もし抹消したらカルタの札が一枚減りますから、子どもたちは遊びができません」


閻魔

「そうなのか、そこをなんとかならんか?」


金田一

「それでは抹消ではなく変更にしませんか?」


司会

「どのようにですか?」


金田一

「はい、『地獄の閻魔は大ピンチ』です」


司会

「なるほど、まさに今の閻魔さんの状況ですね。意味は何ですか?」


金田一

「意味は『どんなに権力を持った人でも時代やルールが変わるとピンチになる』という戒めです」


司会

「なるほど。いいことわざですね。閻魔さんいかがでしょうか?」


閻魔

「ワシの権威が失墜するが、今の立場を如実に表しているからそれでいい。それとカルタも書き換えておくようにな」

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