第38話 ウサギ
金田一
「おはようございます。当委員会も2日目の審議にはいりました」
司会
「おはようございます。昨日はお疲れ様でした。おかげ様で先生のいい『大岡裁き』が見れました。動物たちも満足でしょう」
金田一
「2日目の審査は昨日来ていただいた動物さんももう一回来るチャンスがあります」
司会
「つまり1日に1つのことわざが提訴できると言うことですね」
金田一
「そうです。昨日の猪さんのように同じ意味であれば1回でダブル提訴も可能です」
司会
「なるほどよくわかりました」
金田一
「今日は誰からかな?」
司会
「はい、今朝のトップバッターはウサギですね。それではウサギさんよろしくお願いします」
ウサギ
「おはようございます。よろしくお願いします」
司会
「はい、さっそくですがウサギさんが提訴したいことわざは何ですか?」
ウサギ
「はい、『兎に角』です」
司会
「一般には『何はともあれ、いずれにしても』の意味ですね。『とにかく話すだけ話してみよう』みたいに使われますね」
ウサギ
「はい、でもこれって私たちウサギ関係ありますか?」
司会
「言われてみれば・・・何でウサギの角が『何はともあれ』なんですかね?」
ウサギ
「でしょう?おかしいですね」
司会
「はい、では金田一先生助け舟を」
金田一
「あー、やっぱりウサギさんが来ましたか。実は私もこの言葉は今回の委員会で一番難航すると思ってました」
司会
「え?先生でも難航が予測される言葉があるんですか」
金田一
「はい、正直言いまして、この言葉はウサギさんの提訴通り全くウサギは関係ありません」
司会
「そうなんですか。つまりウサギさんに全く関係ない言葉が毎日頻繁に使われているわけなんですね」
金田一
「はい、もとは中国の故事の『兎角亀毛』から来ています。意味は『兎には角は無く、亀には毛がない』つまり実際に存在しない物を例えました」
ウサギ
「確かに私には角はありません、ほら」
司会に可愛らしい頭を見せるウサギ。
司会
「では何故『実際に無いもの』が『何はともあれ』に意味が、変わったのですか?」
金田一
「平安時代から日本には『とまれかくまれ』という言葉がありました」
司会
「なんか『とにかく』に近いですね」
金田一
「これを私が尊敬する夏目漱石が当て字して『兎角』(とかく)という言葉を明治期に流行らせたのです」
司会
「あ、『兎角この世は住みづらい』ですね」
ウサギ
「では当て字なら『戸確』でも『斗画』でもよかったんではないですか?」
金田一
「多分ウサギが好きだったんじゃないですか?それとも卯年生まれとか」
ウサギ
「はあ・・・」
司会
「ウサギさんの提訴はこの言葉の破棄ですか?名前からの辞退ですか?」
ウサギ
「いえ当て字にされた経緯の解明と、せっかくですから何かオナーが欲しいのです。ここは是非、二兎追わせて下さい」
金田一
「そうですね。長期間ご迷惑をおかけしていますからね」
ウサギ
「はい、是非ともお願いします」
金田一
「オナーですね。要するに何か名誉が欲しいのですね。それではこうしましょう。この際本人の夏目漱石に責任を取らせます」
司会
「責任ですか?しかもこの世にいない夏目漱石に?」
金田一
「今、新札発行が企画されています。新しい1000円札に夏目漱石を復刻してもらい、横にウサギの柄を入れると言うところでいかがでしょうか」
司会
「え、そんなことが出来るのですか?」
金田一
「はい。造幣局に友人が何人かいますから、わからないように差し替えます」
司会
「だ、大胆ですね!先生」
ウサギ
「お札に私たちのデザインが載るのですか?」
金田一
「はい、このあたりが落とし所と思いますが」
ウサギ
「はい、感激です」
司会
「よかったですね。ウサギさん、今までお札に載った動物は鳳凰しかいませんよ。辛抱した甲斐がありましたね」
ウサギ
「はい、ありがとうございました」
喜び勇んだウサギはぴょこんとお辞儀して『脱兎のごとく』出て行った。
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