第36話 コウモリ

金田一

「さてと、お次は誰かな?」


司会

「はい、コウモリです。ではコウモリさんお入りください」


コウモリ

「こんにちは、今日はよろしくお願いします」


司会

「こちらこそよろしくお願いします。コウモリさんといえばドラキュラを真っ先に思い浮かびますが。今日は何を提訴されに来ましたか?」


コウモリ

「はい『コウモリのような奴』です」


司会

「一般に『確固とした強い信念を持たず両陣営の間を渡り歩く卑怯な人間』という例えですね。人間界では『社長派閥と会長派閥をウロウロしてまるでコウモリのような奴だな』などと使われています」


コウモリ

「はい、おっしゃる通り我々はいろいろな人を裏切る場面で使われてきました。つまり『裏切りモノ』の代表格を100年間以上にわたって甘んじて一手に引き受けてきました」


司会

「そうですね、それはやはりコウモリさんの風貌が獣にも見えるし鳥にも見えるからこればかりは仕方ありませんね」


コウモリ

「はー・・・残念です。司会さん、先ほど入場した時にドラキュラ伯爵の名前が出ましたね」


司会

「はい、やはり我々人間の長年のイメージは『ドラキュラ=コウモリ』ですから」


コウモリ

「ですよね。長年我々はドラキュラ伯爵を裏切ったことはありません」


司会

「あ、」


コウモリ

「おわかりですか?どんなにフランケン・シュタインやミイラ男が優位に立ってもあちらサイドに着いたことは一度もないんです」


司会

「つまり、コウモリさんは意外と『一途』なんですね」


コウモリ

「はい、そう自負しています」


司会

「ということは、今日の提訴はこのことわざ自体の破棄と考えてよろしいですか?」


コウモリ

「いいえ違います。ことわざそのものは残していただいて、意味の変更ともう少しリスペクトが欲しいのです」


司会

「わかりました。それでは金田一先生よろしくお願いいたします」


金田一

「私はコウモリさんはリスペクトしていますよ。なんといっても中国では1000年以上生きたネズミがコウモリになると信じられていましたし、コウモリ(蝙蝠)の漢字に『福』と言う字が入っているので『幸福を呼ぶ生き物』とされてきましたからね」


コウモリ

「さすがは金田一先生です、博学ですね。福という字を掛けて広島県の福山市の市章にもコウモリの図が使われています。先生、それではオーストラリアのアボリジニに伝わる寓話はご存知ですか?」


金田一

「さすがにそこまではわかりません。よろしかったら教えてください」


コウモリ

「わかりました。昔、オーストラリアにはカンガルーをトップとする獣のグループとエミュをトップとする鳥のグループの大戦争がありました。ある時、太陽はこのくだらない獣と鳥の戦いに嫌気をさして朝日を登るのやめたらしいのです。真っ暗になり困った獣と鳥は中間にある我々コウモリに『何とかして下さい』と仲介を頼んだのです。そして我々コウモリが太陽にお願いをして今のように毎朝朝日が昇るようになった次第です。どうですか?いい話でしょ」


司会

「えー、今太陽が昇るのもコウモリさんのお陰なんですか?」


コウモリ

「はい、あまり自慢したくはありませんがこれで少なくとも『悪』のイメージは払拭されましたか?」


金田一

「私は昔から紙芝居で『黄金バット』を見て育った世代ですからそもそもコウモリさんに『悪』のイメージはありませんよ」


司会

「私もハリウッド映画『バットマン』を見て育った世代ですから同じです。むしろ私財を投げ打ってゴッサム・シティで闘うバットマンはどう見ても『正義の味方』ですね。あとたしか『デビルマン』もコウモリがモチーフでしたね。そう言えば彼も恋人のみきちゃんに『一途』でしたね」


コウモリ

「そこまでリスペクトしていただければ我々も嬉しいです。最後にもう一つ、我々の持つ能力をリスペクトしていただければ今日は満足です」


金田一

「能力と言うとやはりあれですか、超音波を使って障害物を感知し飛行する能力ですね」


コウモリ

「はい、まさにその通りです。金田一先生は博識なので非常に助かります。我々は通常30から100キロヘルツの超音波を発して障害物を察知してそれを避けながら飛行します」


司会

「それはすごいですね!人間界で言うところの戦闘機の夜間レーダー飛行のようですね」


コウモリ

「はい、自分で言うのもなんですが、動物界広しといえども超音波を発しながら飛行する生物は我々だけかと思います」


司会

「たしかにそうですね」


コウモリ

「みなさんはアニメ『沈黙の艦隊』をご存知ですか?」


司会

「昔見ました。たしか日米で共同開発した原子力潜水艦のコードネームは『シーバット』(海のコウモリ)と命名されてましたね」


コウモリ

「そうです。海江田艦長はこのネーミングに『暗闇で超音波を発しながら耳だけで飛ぶコウモリはまさに潜水艦そのモノです』と言ってくれました」


金田一

「潜水艦乗りのような分かる人だけはリスペクトしてるということですね。わかりました。明日からは『コウモリのよう奴』は意味を変えて『暗闇でも探査能力がある超エリート』ではいかがでしょうか?」


司会

「なんか『忍者』みたいでカッコいいですね」


コウモリ

「満足です。満額回答をいただけました」


司会

「コウモリさん、よかったですね」











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