第6話 配偶竜とペットの違いって何?
わたしのパパは、がんもどきで、新しい相棒は、竜もどき。
大笑いすべきか、深い溜息をつくべきか。
わたしは、深く重い溜息をついた。
でも、
そこのあなた、否定はしないで欲しい。物事の明るい面を探そうと、涙ぐましい努力をしている
はじめての失恋(これが、最後でありますように)。
スリル満点の飛行(爆発シーンの特典付なんて頼みもしてないのにさ)。
いきなり出くわした御遺体(
おぞましい魔物との接近
そして、ミラクルな相棒との
これだけのイベントをこなしてきたわたしに、これ以上の難題はいらない。
もう、いっぱいいっぱいなの。スカスカにすいているのは、お腹だけよ。眠いし疲れちゃったし、もう限界。どうか、優しくいたわってください。
<難題ってほどのことじゃないから、聞いて、マリカ。今のうちに相談しておかないと、あとが怖いよ。それこそ、難題がバラバラ降りそそいできちゃうかもよ>
こいつ、正式に相棒になったとたん、やけに押しが強くなった気がする。正式って言っても、特に儀式があったわけじゃなくて、口約束をかわしただけなんだけど。
『友達になって』、『うん』のノリに近くて。
『結婚してください』、『喜んで』的な感動もなかったけど。
それでも、『相棒になって』と言われて、『いいよ』と答えた瞬間、ソラとがっちり
どうも、『
あれ? よくよく考えてみると、これって、飼い犬になって、リードをつけられたようなものじゃない……?
<飼い犬じゃないよ。ソラが
ソラが怒った。『ぷんぷん』と強調するように、嘴が、うにゅっと円柱状に丸くなる。太めのマカロニになった先っぽから、「ぷっぷっぷーっ」と効果音まで出してきた。
おのれ、笛吹き嘴に進化しておるな。でも、わたしだって、負けないぞ。
<配偶者ぁ? わたし、あんたと結婚した覚えはないよ>
<ソラだってないよ。結婚は人同士で結ぶ契約でしょ。だいいち、ソラは、乙女だよ。マリカとおんなじなの>
そうか、竜にも、乙女がいるのか。
ふむ。営業妨害レベルのわたしが、乙女を自称している以上、どんな見た目をしていようと、乙女らしくないなどとは言えないよな。仁義を欠くことになる。
しかたない。ここは、いったん引くとしよう。
<わかった、わかった。それで、相談って、何?>
ソラの笛吹き嘴が、ふにゃんと力を失った。今度は、象の鼻のように垂れ下がって、ゆらゆら揺れ始めた。
きみきみ、これは、何を表現しているのだね? 不安か、ためらいか、恥じらいか。最後でないことを祈りたい。乙女の恥じらいの図にしては、あまりにシュールすぎる。わたしの順応力にも、リミットはあるんだよ。
<あのね。実はね。ソラは、秘密兵器なの>
なに? 秘密兵器とな? 悪の秘密結社から逃げ出してきた実験体とかいうのかね。最強の正義の味方系? それとも、追いつめられて苦悩する爆誕系? どっちも似合わないな。ソラは、癒し系にはなれないとしても、マスコットキャラ系だ。
<もしかして、追われてるの?>
わたしは、恐る恐る聞いた。この答えによって、わたしも一緒に逃亡生活を送ることになるかもしれないのだから、真剣そのものだ。
ソラは、象の鼻先をうにょりと持ち上げ、横に振ってみせた。「ピッピッ」と効果音付で。おかげで、深刻な気分が消し飛んだよ。計算してやってるとしたら、たいしたもんだ。
<ううん。帝家の承認はおりてるから、非合法ってわけじゃないの。ただ、ほとんどの人は、ソラのことを知らないから秘密ってだけで。あっと、
<つまり、ソラは、品種改良されたハイブリッドってことか>
<うん、そんな感じ。それでね。これからも、できるだけ秘密は守りたいの。配偶竜は、知能が高くて、【心話】が使えないとなれないから、普通の翅光竜には無理なのよ。だから、ソラ、マリカのペットのふりをしようと思うの。そうすれば、いつも一緒にいられて、マリカがここに
<そりゃ、かまわないけど。わたしには、配偶竜とペットの違いもわからないから、『ふり』につきあえる自信がないな。何か、注意点とかあるの?>
<会話してるって、ばれないようにすることね。人前で、【心話】や【翻訳】を使うときは、ソラの方を見たり、声に出して話しかけたりしないで>
<うーん、まだ、よくわからないな。【心話】と【翻訳】の違いは、何?>
<今、話してるのは、【翻訳】ね。言語が違う異種族に対しても、意思を通じ合える力。知能がつりあっていて、波長が合わないとダメなんだけど、人と竜の間だけじゃなくて、動物や魔族とも話せることがあるのよ。【心話】の方は、声に出さずに、同じ言語をやりとりする力。マリカが、帝竜語を覚えて、【心話】を使えるようになったら、もっとうまく説明ができるようになるはずだよ>
ん? さらりと話された中に、さらりと流してはならない内容があったぞ。
<ちょっと待った。わたし、この国の言葉を覚えなきゃならないわけ?>
<うん。覚えないと、ソラ以外の人とお話しできないの。大丈夫。ソラが、つきっきりで教えてあげるからね。きっと、すぐ覚えられるよ>
<その『すぐ』って、4時間くらい?>
<えっと、4年くらい、かな>
<4年! そのどこが『すぐ』だってぇ?!>
<だって、人の子供が言葉を覚えるときって、そのくらいかかるのが普通よ>
<わたしは、もう17歳だってば!>
<うわぁ、ほんと? ソラも17歳なの。でもね、今のマリカは、幼児なのよね。身体が未発達だと、舌もよく回らないものでしょ>
<へ? 幼児?>
<うん。6歳か7歳くらいかな。たぶん、8歳にはなってないと思う>
幼児に転生か。確かに、ファンタジーとしては、定番っちゃ定番だ。
今までは、若返ってやり直せるのは、なんだかお得って気がしていたよ。
こうして、わが身に降りかかってくるまでは。
実際に、語学レッスンもろもろの特訓を受けるはめになるまでは。
必修の英語だって避けたいくらいの語学オンチに、なんて無慈悲なこの難題。
なせばなる。なさねばならぬ、なにごとも――ってか。勘弁してくれ。
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