第5話 相棒は、ちっこい竜もどきである。
さて、わたしは、なけなしの知識をかき集め、想像力の限界に挑戦して、目の前の謎に取り組まねばならない。一体全体、これは、何だ?
膝の上に乗っているのは、子猫大のぷっくりした生き物。
でも、哺乳類ではないはず。だって、羽がある。イメージ的には、インコが一番近いかも。グリーン系の鮮やかな色合いで、胸もとの体毛が、ふわふわ柔らかそう。
二本の脚にも毛が生えてて、鳥類にしては太い。左右八本の
ここまでは、受け入れられるね。日本では見かけなくても、アフリカあたりには生息していそうだから。
問題なのは、羽。あ、羽じゃなくて、
たたむとドーム状に丸く見えて、外側はテカテカしていて硬そうで。ただし、それが光ってる。エメラルドばりに
まぁ、でも、
違和感ありまくりなのは、顔。第一に、口ね。いや、これ、そもそも『口』って言っていいんだろうか。
最初に見たときは、『にぱっ』という
それが、ゴムみたいにぐにゃりと変形して、今は、キツツキみたいに尖った『
第二に、耳。鳥には、『耳』はないよね。目の後ろに穴が開いてるだけで。てんとう虫や蛍にだってない。少なくとも、エルフ耳は。
そう、あの先が細く尖っている耳がついてるの。ただ、ふにゃふにゃと揺れている。風圧がかかったら、つぶれちゃうんじゃないのかな。もしかすると、こっちも形状変化するわけ?
第三は、鼻。たぶん、これは『鼻』じゃないかな、と
エメラルドを丸くカットして、そのままはめ込んだみたいな宝石が、ピカピカ点滅してるの。『翅』と同色だから、コントラストがきいて、そりゃ綺麗だけど、ここまでくると、生き物にすら見えない。人工物だと言われた方が、しっくりくる。
でも、体温が感じられるんだよね。ほんわかと。
そして、第四にして最大の注目点が、『目』。大きくて丸い
きっと、これが竜気だ。バリアの糸と同じ白光色だもの。ここから、ピーッと攻撃光線が出ても、わたしは驚かない。
驚いたのは、厚ぼったい
わたしは、思わずのけぞった。意外と気持ち悪くはなかったけど、わたしの貧弱な脳みそは、これ以上考えたくないと訴えている。
自力で謎を解くのを
<あのさ、ソラって、鳥の一種かな。それとも、ロボットか何か……?>
聞いといてなんだけど、こりゃもうロボットだな、と確信した。わたしの崩れた膝から、ススーッと飛び上がったソラを見て。
なにしろ一度も羽ばたかなかったんだから。バサバサとも、パタパタとも、ブーンともさせないの。
ただ、ワンタッチ傘みたいに、ポンと翅を広げて、軽く浮き上がっただけ。そして、そのまま、空中に浮かんでる。わたしの顔の真ん前、20センチくらいのところで、静止しているのよ。反重力装置を内蔵しているとしか思えないじゃない。
<ソラは、―――だよ>
ソラの答えは、よく聞き取れなかった。こんな雑音が入るのは、初めてだな。
<え、何? 今、なんて言った?>
<あ、【翻訳】がきかなかったね。マリカの世界には、いないからかな。順をおって説明してみるね。えっと、まず、ソラは、竜なの。小型だから、
<竜……?>
あんたのどこが竜だよ。ファンタジー定番の
この際、大きさは置いておくとしても、ぜんぜん爬虫類っぽくないって。ほら、堅い
とにかく、あまりにもあまりにもイメージからかけ離れてる。
<一応、マリカのイメージに一番近い言葉に、【翻訳】されているはずなんだけどねぇ。異界とは、いろいろ違いすぎるから、これが限界なのかも>
<【翻訳】って……そうか。そうだよね。ソラが日本語を話してるわけないし、わたしは、ここの言葉を知らないし、自動的に意訳されてるのか。やだ、それじゃ、ソラを見て、『竜』って言葉に変えたのは、わたし自身ってことじゃない>
<ごめんね。『竜もどき』ってことで、オーケーしてくれない? あー、でも、ソラもショックだよぉ。マリカ的には、期待はずれだったなんて……>
<期待はずれとか、そういうことじゃなくてね。その、ちょっと……、いや、正直かなりのギャップがあるもんで、とまどっちゃってるだけよ>
<がっかりしたんじゃないの?>
<そんなことはないよ>
<ほんとに?>
<ほんとに>
<だったら、正式に、相棒の契約してくれる? ソラと>
ソラのキツツキ嘴が、うにゅっと変形して、『にぱっ』型の半円形に戻った。
見事な
いや待てよ。これって、乙女としては、キャーッとか怖がる
わたしってば、順応しすぎ。『器用』の一言ですませた自分が怖いぞ。
とにかくかくにも、断る選択肢のなかったわたしは、こうして、なし
なんだか、はめられた気がしないでもなかったけどさ。
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