第5話

「ちとせ君、勉強教えてー!」

早見千歳。常に騒がしい女の子達か、可愛い女の子達に囲まれている。

超絶イケメン。見た瞬間、あまりの美しさに目を奪われる。しかし、すぐに、あ、こいつ絶対遊んでるな、と思うあけみだった。

「まじ女子怖い、まじ女子怖い!」

「うっとおしいのよー!早くちとせ君のとこに行けばいいじゃない。」

「常に女子に囲まれてて、近寄れない‥物理的に。あと、ちとせの周りにずっといる女子、怖くて精神的にも無理。」

たけよしがはるかに泣きついている。はるかはヘタレ〜!と言いながらも、松山さんも常にちとせ君にべったりだし分からんでもないけど‥としぶしぶはるかグループと一緒に授業を受けることを承知する。

「てか、ぼっちで授業受ければいいじゃん!なんてことないでしょ!?自立しなさい!」

「寂しいの!ほかの男性友人どもは学校来ねーし。しかも、誰かに聞かんと授業分からん!そこで頭だけはいいはるか様。」

「はあっ!?」

2人が揉めている間、携帯のチャットに返信する。かよこは風邪でお休み。

そして、咲月夜のゲームアプリを起動させる。

雲隠れにし、夜半の月かな‥

御息所さん、また救軍を頼みたいと?今度は長期で。裏切らない?

チャットが鳴った。

みのり先輩からだ。

「えー、諸君、こないだの飲み会は楽しかったなー。さっそくだが、またやらないか?新入生生活も1ヶ月ちょい経ち、慣れてきたところで新メンバー追加でまたやりますー!!友達100人プロジェクト☆」

いや、また合コンだろ。

はあっ、とため息をついて眉間にしわを寄せる。

しかし、たけよしとはるかの高校の先輩でもあり、たけよしとは高校時代から剣道部で一緒。大学の剣道部のOBでもある、みのり先輩、なかなか面白い男だ。

勝手に授業受けろよ!何その言い方!?と憤慨したはるかと、気にしすぎだろ!?とオロオロするたけよしの間に座った。

「はるか、飲み会どうしよ‥」


「かよこちゃん休み!?」

たけよしがポカンと口を開ける。

場所は某街中個室居酒屋。飲み会が幕をあけたばかり。

「そう、インフルエンザだったらしい。珍しい。」

「メンバー少な‥あけみさんはいいとして、またはるかかよ‥」

「私もたけよしかよ‥って感じ。」

またぎゃいぎゃいしているところで、飲み会大好き☆なみのり先輩が涙を拭う。

「おかよは残念だが‥やっと!やっと!ちとせ君が来てくれた‥!」

争いをやめ、たけよしがそうなんだよー!!とスクリームする。俳優並のイケメンに抱きつく。

「よしよし。2人とも、ごめん。色々忙しくてね。」

「すげー奇跡!!!学年の超絶アイドル、ちとせ様が飲み会に来るとは!どこの飲み会も誘われても来ないのに。てか、喋りたかったよー!!」

たけよしが号泣する。みのり先輩がさすがイケメンー!と抱きつく。お前らそっち系か。

早見千歳、男にも、女にも超絶もてる男。聞けば高校は全国有数の進学校で、乗馬クラブとテニス部の兼部、どちらも全国大会に行ったほどの腕前。私たちの入学式では新入生代表挨拶をつとめた。入学前からかなり話題だったらしいが、入学式で、かなりの美形が登場したとたん、一躍うちの大学の時の人に。

さすがのあけみも、王子属性だけは認めた。

話してみると、ちとせは気さく〜な良いやつだった。人を上から見ることもなく、ただただたけよし達とじゃれている。いつもいつもたけよしが、ちとせー!ちとせー!とうるさいが、本当に仲良いんだな、と思った。

男2人はちとせにべったり、メロメロになっている。はあ、これがたけよしとみのり先輩じゃなかったら美味しいのに、とあけみは心底ガッカリした。


「あけみさん、喋らずに飲んでばかりだったからね。」

気づいたら、皆んなに囲まれて介抱されていた。

「大丈夫!?気づいたね!!」

はるかがわあ〜っと泣く。ウーロン茶飲んで、と心配そうなたけよし。みのり先輩は救急車を呼ぶ直前だった。

「うかつだった‥。前回はあけみ、ソフトドリンクだったもんな。あまり飲んでなかったから気にしてなかったけど‥かなり弱いんだな‥今度から飲酒禁止!!」

こんなに真剣なみのり先輩、見たことない。

状況を理解し、

「迷惑かけてごめん‥」

あまり飲んでなかったのに、慣れない飲酒で、そこまで酔うと分からなかったらしい。あまりの皆んなの心配しようでかなり申し訳なくなり、二度と飲酒しないことを誓った。

「ここに、休んでて。」

ちとせが寝床を設営していた。近くにエチケット袋からお冷ピッチャーとコップから、何からなにまである。

どこから借りてきたのか??まくらやタオルケットまである。

「本当にごめん‥」

それしか言えない。まさかこんな少量のお酒でダウンとは。お酒は怖い。今何時?携帯を見ると20時‥飲み会終了は21時‥

「寝とくから、みなさん気にせずに飲み会を続けてください。お金もったいないし、申し訳ないから‥」

「家に帰らなくて大丈夫?」

「念のため、もう少し休もうと思います。」

家に帰るなんていうと、必ず誰かが送るよ!となってしまう。その誰かが申し訳ないから、ここで飲み会が終わるまで眠ることにしよう。ああ、申し訳ない‥情けない。

あけみさんが無事で良かった‥ちとせの優しい声が遠くなっていった。


「私があけみを送る!!」

「それが一番いいんだけど、なんさまお前ら家遠すぎだもんな。」

はるかは、あけみ、女の子でしょ!!心配だし!!強く主張していたが、お前も女の子だし。とみのり先輩が言った。

「ちとせがあけみを送れ。ちとせなら安心だし、色々とスキルも高い。」

「ちとせ君、めっちゃいい人だけど、男の子!!」

「あー、もー、はるかは俺が送る!!ちとせ、あけみを任せたぞ!!」

たけよしの一言で半ば強制的にそういうことに。いつものあけみなら、知らない、今日知り合ったばかりの男の子と!?と嫌がるところだが、不思議とちとせ君なら‥と妙に安心出来た。

この人、彼女じゃないと手を出さない人だ

過信はできないが、なぜかそう思えた。それは、ちとせの優しい温かい人柄に触れたからだろう。この人の根底は温かい海だ。その海をひたすら泳ぐイワシ。

あら、何考えてるのかしら?

大丈夫かな!?といまだに言う心配しまくりのはるかと、心配しまくりだが、なぜか絶大な信頼をもってちとせに託した男達とバイバイした。


「大丈夫?気持ち悪いの?吐こうか。」

何も言ってないのに、顔色だけでちとせが察した。あけみを近くの公園のベンチに座らせ、エチケット袋を取り出す。

「いや、大丈夫。」

「スポドリ飲もうか」

スポーツドリンクを手渡す。

まったく密着せず、適度な距離感からの、適切な対応。もてるってこういうことか。

落ち着いたところで、ちとせが口を開く。

「今日、月、めっちゃ綺麗だよ。」

あけみが見上げると、綺麗な綺麗な満月。

「一句読みたいわ〜」

「‥ちとせ君、俳句やってるの?」

「いや、和歌習ってる。近くの公民館でゆるーりと、おばあちゃん、おじいちゃん達と一緒にやってるよ。」

「‥意外。」

ちとせ君は知れば知るほどのほほんとしたお人好しで、とても、漫画属性の人とは思えない。

「あけみさんはなんか趣味とかないの?」

「‥ないけど、和歌とか古文は私も好き。」

「へえ〜!俺も古文好き!伊勢物語とか、源氏物語とか好き!」

それから話が多いに盛り上がった。平安文学から、その時代の文化、歴史まで。歴史が一番得意で、全国成績優秀者に載ったところも一緒だった。

「俺、勉強と部活だけで、今もなんだけど、恋愛と無関係なんだよね。だから、俺の中で恋愛って言ったら源氏物語で。」

「‥むちゃくちゃモテててるじゃない。ひくてあまた。」

「たっくさん話しかけてくるんだけど、その対応に追われるし、飲みにも誘われるけど、正直、女の子ってどうしたらいいかわからなくて、2人きりとか無理で、全部断ってる。」

嘘だ‥私を騙すための嘘‥私に悪く思われたくないための嘘‥真面目ぶってるとも思わなかった。以前の、早見千歳と関わったことがない私ならそう思って警戒していた。絶対に嘘だと軽蔑していた。でも知ってしまったのなら、しっくりときた。

「だからさ‥」

ふいーっとちとせはのびをした。

「俺も、源氏みたいに自由に恋愛したいよ。ハーレム作りたい!」

あ、この人、私と一緒だ。

あははっと、ちとせが笑った。月のように明るくて綺麗な顔だった。


「それ!?」

その飲み会から数ヶ月。あけみはかよこの家にお泊まり中。

「あけみが千歳君を好きになったきっかけってそれ!?!?私を破った運命の男!の方ではなく!?」

「それが興味を持ったきっかけ。その台詞で本当にチャラいなら好きにはならなかったわ。私と同じ、欲望を抑えつけた超絶生真面目なやつ。」

「欲望‥可愛い願望ではなく??あけみと一緒にしていいものか‥。」

「それから2人でよく話すようになって、仲良くなって、エロゲーの話をしたり、BLの話をしたり‥いつのまにか話してないと、くっついてないとダメになったの。自然と追っかけるようになった。」

「あけみ、可愛い。」

「奴がGENJIだと知ったのは、本当に仲良くなってずいぶん後の話。奴が私を夕顔と知ったのも同じ時。ゲームの時のあいつは、一歩でも間違えれば、こちらが、魅了され、もてあそばれ、はかなく露となって消えてしまいそうな、対戦相手切ってのキレものにして悪魔。魅力溢れるプレーヤー。だけど、現実でGENJIの正体を知ったら、ああ、やっぱりGENJIって私と同じやつだ、と納得した。」

「ゲームは色男、現実は真面目で純情みたいな。」

あけみは電灯に手を伸ばした。

「会いたい‥」

ただの、理想の王子様なら、あなたを欲しないはず。一緒に寄り添って、たくさん話して私の色々を理解してくれた。生真面目で、ただ生真面目で、現実ではそうやってしか生きれないことを。

小、中、高を思い出した。

どんなに勉強をすることは出来ても、恋愛をすることは出来なかった。

それは、色んな理由からだった。

それをあなたは変えてくれた。

漫画のようなことも、運命的な出来事でもなく、一緒に過ごすあなたのおかげで。

あなたがただ、いいね!って一緒に楽しんでくれるだけで。


それが、私にとっての理想の王子様。

「つまりは一緒にエロゲー出来る人ね。」

かよこが笑った。

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