第24話 想い
「だからわたしは、出来上がった料理をばれない様にすり替えた。
でも、それだと気付かれるかもしれないと思っておばあちゃんの料理にも毒を入れておく必要があったの母を安心させるために」
夏菜の話を黙って聞いていたミサ…
ー夏菜の言っていることは真実なんだろう
今さら嘘を述べたところで意味がないから。
ーそれよりも…
あのおとなしい嫁がわたし達を毒殺することを考えていたなんて。
わたしが悟との楽しい思い出を全てを話し終えたのは午前2時過ぎだった。
あいかわらずわたしとの距離をとっているミサおばあちゃん
「おばあちゃん、こっちに来て」
なんだいまったく
手招きすると愚痴りながらもミサおばあちゃんは、ベットに腰掛けていたわたしの膝の上で丸くなった。
さらさらとした猫の毛がわたしの素肌にあたって気持ちいいし、あったかい。
「えへへ、やっと仲良くなれたねミサ」
ニャー、 …なんだい急におかしな子だね
「だって、ずっとわたしミサに冷たい目で見られてたから」
ニャ、 そりゃまぁね
わたしはしばらくぎゅっとミサを抱きしめてた。胸の鼓動がゆっくりと伝わってくる。
おばあちゃんは何も言わずシッポだけを振っていた。
ーわたしのことをわかってくれたのかなおばあちゃん。
ーもしかして、今の話しを聞いてわたしのことを不憫な子にしてしまったと自分を責めてるのかな?
ーでもね。おばあちゃん。
わたしは凄くおばあちゃんに感謝してるの…
「おばあちゃん。…むかし話しよっか」
悟との馴れ初めならさっきさんざん聞かされたけど…まだあるの?
「ううん違うよ。わたしが小学校の頃の話。一度だけね、おばあちゃんにもの凄く叱られたときあったよねわたし」
ああそんなことがあったね
ーーーーーーーーー
小学5年生の始め
わたしたちのクラスで一人、みんなからいじめを受けていた女の子がいた。
名前はあきちゃん。その子はもの静かで内気な性格の子。
容姿や体格も普通。何もかもが普通でいたって取り柄のない子
ただ一つだけみんなと違ったのは、その子の家が母子家庭だった事だった。
〝あきんちのおかー、よるになるといろんなおとこをいえにいれてるって〟
クラスの男子が言った言葉がはじまりだった。
その子はお父さんから聞いたと言っていたけど、今思えば、子供にそんな事言う親もどうかと思う…。
結局、そこからクラス全員であきちゃんのあら探しをしていった。
3日間お風呂に入ってないから不潔、汚い、髪もボサボサで臭いなどと言われるようになり、机や黒板などに落書き、給食や上履きに唾や画鋲を入れるなど陰湿ないじめが続いた。
終いには、〝おまえのかあちゃんブス〟とあきちゃんのお母さんの悪口を書いた
紙を背中に貼って帰っていた。
その行為をわたしは黙って見ていた。
…いやもしかしたらわたしもいじめる側にいたのかも。
その当時から可愛く頭のよかったわたしはクラスの男女からカーストトップにおかれていた。
だから、あきちゃんは何かとわたしと比較対象として扱われ差別されていたし、わたしもひどい事を言ったのを覚えている。
ただ、そのいじめは1週間で終息した。
あまりにもいじめがエスカレートして担任にばれたのである。イジメの事実は教頭、校長にも伝わった。
同じ日、あきちゃんのお母さんからも電話があり学校側がすぐに調査をした。
わたしたちにとって運が良かったのか悪かったのか、わたしの通う小学校は県のモデル校として認定されていたらしく、学校の対応は素晴らしく早かった。
田舎町の小学校でクラス生徒20人だったわたしたち全員がその日の夜に小学校へ親ともども連行された。
緊急保護者会と名乗るお叱り会に…。
ちょうど月曜日から始まり金曜日に発覚したイジメ問題。
保護者達は動揺して、わたしたち子供をにらみつけていた。そこへわたしのおばあちゃんの罵声がきこえる…
なな!あんたなにをしてるのおばあちゃんはそんな子に育てた覚えはないよ!
「……」
クラス中に響き渡るおばあちゃんの一喝…
この日来ていたのは、お義父さんとおばあちゃんだった。母は弟の面倒があり欠席している。
学校側から連絡があり何事か心配していた保護者、ここに来て初めていじめの内容を知らされた。わたしはその事をあらかじめ伝えなかった。
たぶん怒られることはわかっていたから、親の様子から見ると他の子もみんな同じだった。
そして真っ先にわたしに雷が落ちたのだった
「……ごめんなさい」
あの時、わたしは子供ながらに素直には謝れなかった。反抗期だったのかも…
他の子のほうがもっとひどいことしてたのにとそんなわたしの考えが顔にでていたのかもしれない。
それでおばあちゃんを余計に怒らせてしまった…
なにむすっとしてるのなな!ちっとも反省してないわね。ちょっと立ちなさい
わたしが立ちあがると隣に座っていたおばあちゃんは〝ちょっと痛いけど我慢しなさい〟と言ってお尻を思いっきり叩く。わたしはクラスの子の前で叩かれた恥ずかしさと
痛さで顔を真っ赤にしていた。
とどめにほっぺを思いっきりつねられ半泣きして謝った。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
泣きながら謝るわたしを見兼ねたお義父さんがおばあちゃんを止めようとして
〝悟あんたは黙ってなさい〟
一喝され静かになってしまった。
お義父さんの助けもなく静かになった教室。
その中でわたしのすすり泣く声だけが響く
そして、おばあちゃんはわたしにこう言った…
いいかいなな、よく聞きなさい。
あなたは今、痛みと恥ずかしさだけで泣いてるかもしれない。
でもね、あなたの痛みは一瞬で終わるの
恥ずかしいのも今だけ
だけど、こうやって怒られたことはずっと記憶に残るわよ。あなたが大人になっても
おばあちゃんのこと今のななはどう思う?
…こわい?
「…うん」
そうだよね
だったらあなた達がいじめていたあきちゃんだって同じ気持ちなんじゃないの?
なながこれからどれだけ謝っても
あきちゃんにはどうしようもない心の傷がずっと残るの
それをあなたがせきにんとれる?
だったらどうすればいいか
もうななも11才だからわかるわよね?
「…」
あきちゃんはどの子?
おばあちゃんが教室を見回して探す。
わたしはあきちゃんを指差した。
そうあの子ね。
それじゃ謝りに行くよ。おばあちゃんも一緒だから
おばあちゃんはわたしに手を差し伸べあきちゃんの席まで連れて行こうとした
だけど、わたしはおばあちゃんを無視して
黙って教室をでていった…
こら、なな!どこ行くの!
教室からはおばあちゃんの凄い怒鳴り声が聞こえてくる…
優しいおばあちゃんに逆らうのはすごく怖かった。
でも、わたしはわたしのやり方であきちゃんに謝りたかったから、そのまま廊下を走ってある場所に向かった。
…数分後
教室に息をきらして戻ったわたし
おばあちゃんが涙を流しあきちゃんに謝っている。
そこにわたしが割り込んだ。
「あきちゃんごめん」
あきちゃんは謝るわたしを見て困惑していた。
隣で謝っていたおばあちゃんも、
怒るより先に唖然としてわたしを見ている…。
「だから、わたしもあきちゃんと同じ気持ちになってみたの」
教室にいる全員の視線がわたしに集まっていた。
「ごめんなさい。わたしがあんな事言って
…汚いなんて言ったから」
涙が口の中に入ると、ジャリっとした砂を噛む鈍い音が聞こえた。
教室から勢いよく飛び出したわたしは逃げた訳じゃなかった。
校庭の砂場で砂や泥を塗り、さらに水浴びをしてきたのだった。
おかげでわたしの髪の毛はぼろぼろでぐちゃぐちゃ、真っ白な肌も顔から足の先まで泥の化粧で汚れていた。
もちろん服は着ていたけど…。
そんなわたしを見て困った顔をしていたあきちゃん。
あきちゃんはしばらくは黙ってわたしを見ていた。
そして、突然泣きながらあきちゃんはわたしに話しを始めた。
ななちゃん…
ななちゃんがそこまでしなくても
わたしななちゃんが悪いなんて
ぜんぜん思ってない
…だってわたしにきたないって言っただけで、あとは何もしてないよね
「ううん。わたしがきたないって言ったせいでみんながもっとひどくいじめるようになったの…それはわかってるの。
だけど、わたしはそれを見ているだけだった。本当は先生に言ってやめさせなきゃいけないのに」
……
「ごめんなさい。ほんとうにごめんなさい。
あきちゃんがわたしたちにイジメられていた一週間は、ずっとこのままでいるから約束するから…ゆるしてほしいの。
だから、また来週の月曜日からも学校に来てね」
……いいよ
あきちゃんは軽くうなずいた。
本当はもう来ないつもりだったらしい
仲良くなった本人から後日聞かされた。
「ありがとう。
…あきちゃんわたし友達になっていい?
あした家に遊びに行っていい?」
………うん
その後、クラスのみんながあきちゃんに謝りその場はお開きになった。
次の月曜日、驚いたことに一週間続いたあきちゃんへのイジメはぴったりとやんだ。
わたしにはその理由が何となくわかっていた。
たぶん、おばあちゃんも初めからわかっていたのだろう。
…知らないうちにクラスのトップになっていたわたしをみんなの前で叱り謝罪させることでイジメは終わる。そして、あとはわたしに任せれば大丈夫と。
そんなおばあちゃんの考えは当たっていた。
わたしがあきちゃんと友達になったことでクラスの女子があきちゃんとも遊んで話すようになった。
男子もクラスの女子から嫌われてしまうことを嫌がりイジメることはしなくなっていた…。
「あの時かな、おばあちゃんはやっぱりすごいって思ったのは」
ニャン
それはそうだろうね
「悟なんて、ずっと黙ったままだったし」
ニャ、ニャ
あの子は優しいけど気弱だったからねー
「ほんとそうですね。頼りなかったからなぁ
悟は、だからわたしはおばあちゃんに感謝してるの。いい事も悪い事もしっかりと教えてくれた」
ニャ…ニャー
そうかい。ありがとね。
その割に間違った道を進んだような気が…
「うん。それは否定しないよ
でも、わたしは後悔してないかな。
なんせ、自分のしたい事をやって選んだ道だから」
ニャン
…そうかい
ーただ…ね、おばあちゃん
おばあちゃんにとって一つ誤算だったのはね
友達になったあきちゃんのお母さんが
性についてはオブラートだった事。
わたしたち子供にも色々話して教えてくれたこと。
実戦とかそんな事はされなかったけど…
熱心だったことかな…。
だから、頼りなくても優しい大好きなお義父さんに興味本意で…。
わたしが大人の階段を登るのが早かったのかなぁ。
でもこの事。実は大親友であるあきちゃんはわたしとお義父さんの真実を知っていたの。
イジメてしまった謝罪、やっぱり誰かに喋りたい欲望、あとは何かあった時にわたしの脅しのネタにでも使ってもらえればそれでいいからと教えたんだ
だからあきちゃんとわたしはもっと仲良くなったんだよ…ごめんねおばあちゃん。
おばあちゃんとの会話はあっという間に時を進み、時刻は午前3時まえ。
さっきまで猫と人の笑い声が聞こえ死体が寝かされた室内はまた静寂に包まれ、夏菜は静かにミサの頭を撫でていた。
「ごめんねおばあちゃん。もうそろそろ時間だから…」
夏菜の言葉にミサは一言〝そうかい〟と返事をしてまるけていた自分の尻尾をゆっくりと伸ばすのであった…。
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