第21話 欲望

「…なんで。…なんでミサからおばあちゃんの声が聞こえるのよ!」


ニャー…ニャ

…なんでって?そんなの私があなたのおばあちゃんだったからじゃないの


突然、言葉を話し始めた猫に困惑する夏菜。ミサはそんな夏菜を無視して冷静に話しを始めた。


「だっておばあちゃんはあの時…、毒キノコを食べて死んだはず」


ええ、死んだわよ。…正確には夏菜、あなたに殺されたのだけど


「じゃあ…幽霊になって私に仕返しに来たの?ミサに取り憑いて…」


いいや、私はとっくの昔に成仏したよ。

その後の記憶は知らないのよ、気がついたときは猫になってたね。

だから、あなたの事を思い出したのもこの家に拾われてから、つい最近よ


「…そうなんだ」


ところで、本当なら久しぶりねと一声かけてあげたいんだけどね…

…私はあなたに怒っているの


「…おばあちゃんを見捨てて殺した事?」


違うわ。あなたに殺されたことについてはわたしはあまり怒ってない

…そんなことより、あなたいったい何をしてるの?何人殺せば気がすむの


「…」


ミサはベットに横たわっている人物に目をやると、そこには血を大量に流し絶命している義父が寝ていた。

その横にベットに腰掛けた夏菜がいる。


私はあなたが何をしたいのかわからない

義父を誘い体をあわせたかと思ったら殺すなんて…


「…」


以前、この家に出入りしていた男も殺したわね

あなたが作った料理を渡してからその男の姿を見てない

その男がいなくなり入れ代わるように別の男が現れた。

…その人は殺してないようだけど


しばらくミサの話しを静かに聞いていた夏菜が重い口を開け淡々と話しを始める。


「……ふーん、おばあちゃん。よく見てるねわたしのこと。人間の記憶が戻ったのがつい最近って言ったけど…いったい、いつからなの?」


…それは、あなたが私と同じように自分の旦那と子供を毒殺したときよ


「ああ、あのときかぁ。おばあちゃんは見てたんだ。わたしのしていた事」


この家の中で起きてた事は。全部分かってるのよ夏菜


ミサは声を震わせ夏菜の顔を見上げると彼女は笑っていた。


何がおかしいんだい夏菜!


孫娘の奇行に少しばかり苛つくミサ…

重苦しい空気の室内はしばらく静寂に包まれたが…すぐに夏菜が沈黙を破った




「ねぇ、おばあちゃん。男ってほんと単純だと思わない?」



「わたしの顔、体を見ておばあちゃんはどう思う?」


柑橘色に灯された部屋で夏菜の真っ白な裸体は美しく輝いていた。

ミサは黙ってずっと彼女を見据えている。


「子供と旦那を毒殺したわたしは当然警察に疑われた。ただ、疑惑はあっても証拠や動機がわたしには見つからなかった…。

だから、しばらくは警察も諦めずわたしを重要参考人とて扱っていたみたい」


…普通に考えたらそうだろうね。あなたが一番怪しいと、誰もがね。

わたしだってすぐに捕まるだろうと思って見てたから


「まぁ、わたし1人では無理だったけどね。協力してくれる人が他にいたから。すぐには捕まることはないだろうと安心していたの。だけど、すぐにあいつが現れた」


初めに出入りしていた男かい?


「ええ、この義父が雇った探偵がね」


もがき苦しんで死んだ義父を見て、夏菜は勝ち誇った顔をした。


「その探偵はどこで調べたのか、わたしの確信にもっとも近づいていたの。

だから彼にわたしは先手を打った

〝ねぇたった1000万の報酬より、わたしを奴隷のように扱ってみない。あなたのやりたい事を毎日好きなだけできるのよ〟

なんて言ったらすぐに彼は寝返ったわ」


ーなんて男は馬鹿だ。夏菜が殺人犯だとわかっていても欲望には勝てないのか?


「それから、その探偵の紹介で警視庁のかなり上の幹部と知り合い、わたしは彼をホテルへ誘いベットの上でこう囁いたの

〝もし証拠があがっても、揉み消してほしいの。2,3年なら何とかなるでしょ。あなたの権力なら。もちろんその間はあなたの好き放題に犯していいからわたしを。あなたがわたしに飽きたら逮捕してくれればいいの。わたしは何も言わないし、あなたの株もあがって

一石二鳥よ〟

そして取り引きは成立したの。まぁ実際は1年も必要なかったんだけどね」


ーほんとうにどうしようもないやつばかりだ…


「その後、探偵だった男が邪魔になり消された。…まぁ利用価値がもうなかったからわたしも丁度よかったんだけどね」


…やっぱり夏菜、あなたは魔女よ


「魔女?…いい例えだね。

おばあちゃんが黒猫のミサでわたしが魔女。お似合いだね」


小さい頃に見せたアニメ映画の曲を夏菜が楽しそうに口遊む。


まだ話しは終わってないわよ夏菜。

だいたいどうしてあなたが

自分の子供と旦那、そして義父を殺さなければならなかったの?


「うん、それはね。

わたしの1番大切な人だった悟を殺した復讐の為だよ…おばあちゃん」


孫娘の夏菜から聞かされた悟と言う懐かしい響きに、2人が抱き合っていた姿が脳裏によぎった。


ーあのあともやっぱり続いていたのね。夏菜と悟の関係は…それに、復讐ってどういう事


複雑な思いを巡らせたミサは、

両耳をピンと縦に立たせるのだった。














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