第20話 再会
規則正しい鐘が9回鳴りゆっくりとメロディが流れる始める…
華麗な舞を披露し始めた人形はいつもと変わらない
人形の踊りをじっと見つめ、きき耳をたてて静かに聞いている黒猫
その行動は夏菜の家族に拾われてから今まで、ずっとミサの日課になっていた。
ー何も変わらないわね…人形達は
喜歌劇「天国と地獄」序曲の後半パートだけが繰り返され人形達は曲に合わせ毎回同じ動きをしている。
ー…この曲、わたしはずっと運動会の為だけにあると思ってたわ。…本当は違ってたんだね
以前、夏菜が自分の子供達に何の曲か聞かれ応えているのを盗み聞きしたミサ…。
その時初めて知った、この曲はドイツ人のジャック…さんが作ったということだった。
ー死んでから娘に教わるとはね。…昔から夏菜は賢かったから
賑やかだった曲も終わり、役目を終えた人形達はまた箱へと戻っていく。
明日も明後日も同じ踊りをするのだろう。ずっと変わらず永遠に。
ミサはリビングのテーブルに目をやった。
そこにはお酒を飲んで楽しそうに笑う夏菜の姿と、美人が隣に座って上機嫌な義父
完全に義父は夏菜にペースを奪われている。
ただミサにはわかっていた…あの娘が全く笑っていないことを。
あれは男を落とす為の夏菜の偽顔。
以前、この家に出入りしていた他の男にもあの顔を毎日見せていた。
それにミサは夏菜の本当の笑顔を知っている…悟と一緒にいた頃、見せた幸せな顔を。
ー夏菜あなたは一体何を考えているの?
なので、夏菜が次にどんな行動にでるのかは当然分かっていた。
彼女は義父と寝るのだと…
ここまでは予想できた。
ただ、どうして義父なのか?が
今のミサにはまだ理解することは出来なかった。
ミサの考えがまとまらない内に二人の宴は終わっていた。
夏菜がテーブルの食器をキッチンへ手早く運び終え、義父にリビングで少し待ってほしいと伝えていた。
言われた義父はおとなしく待っている。
…五分後
義父の元に戻ってきた夏菜はさっきより一層美しく淫らに変貌を遂げていた。
その姿は、まるで遊郭にいる遊女そのものだった。
淡い赤紫色で統一されたランジェリーは夏菜の白い肌と上手い具合にマッチし、
肩にかけられた紐は、夏菜の胸を申し訳なさそうに支えているだけで少しでも紐に触れたらすぐにでも彼女の上半身が露わになるようになっていた。
そもそも、淡い色合いがすでに裸体を薄っすらと浮かびあがらせているのでそこは問題ないのかもしれない。
これを見た男は当然黙っている筈もなく…
義父は夏菜に誘われるまま、階段を上って二階の寝室へと消えていった。
これから第二の宴が始まるのだが、何時間続くかは彼女の機嫌次第だろう。
いまだに夏菜の真意がわからないミサはいつものようにリビングで寝て待っていた。
二人が寝室に入り一時間ほど経った頃、ミサは暗いリビングで目を閉じ静かにしていた。
…どうやら行為は終わったらしい。
夏菜の甘い嬌声が少し前から聞こえなくなっていた。
別にミサは夏菜の声が聞きたくて聞いているわけでもない。
寝室の扉も閉まってるし、この家の防音設備はしっかりしているので人には普通聞こえることはないのだが、ミサは猫である。
猫は人間の聴覚の約3倍あり女性が好き。
それは男性の低い声よりも女性の高い声の方が安心感を抱くというなかば猫の本能みたいなもの。
なので、例え聞くつもりはなくても無意識に夏菜の嬌声がはっきりとミサには聞こえてしまっていた…。
いつもならこの後も夏菜の嬌声が夜更けまでは続くのだが…今日は違っていた。
20分、30分と時間が過ぎてもいっこうに聞こえてこない
ーよほど気持ち良くなかったのかね?
ーあの子が次にいかないなんて珍しい…
なんて悠長な事を思っているとき
あの断末魔のような悲鳴がミサの耳に響いた
ミャーー
ミサは鋭く甲高い声で鳴き、前足でドアを引っ掻き回したが寝室から返事はない。
代わりに聞こえるのは夏菜の尋常ではない罵声…
今の夏菜が寝室のドアを開けることはないとさとったミサは階段を下りリビングへと戻った。
ーどうして…
ーなんでそんな事を…
夏菜の声と、たどたどしい義父の話し声でミサには寝室で行われている状況が掴めていた。
リビングへと戻ったミサは小さな猫用の小窓に飛び込んだ。
ー…
雲ひとつない冬の澄みきった夜空に星々が光り輝く
庭へと出たミサは一本の大きな桜の木を駆け上る。木の上から吹きつける風は冷たく、都心部の無機質な建物が寒さをより一層感じさせていた。
ねらいを一点に定めミサは勢いよくジャンプする。バルコニーに無事着地したミサは近くにあった小窓から素早く体を寝室に潜り抜かした。
…おい。もう…。…一思いに殺せ
「あぁ?なんかいったか、お前」
だから……ころせ
ー毒がかなり効いてきたか…
ー義父から流れ出る大量の汗と血を見る限りでは、もうほとんど意識が朦朧としているのだろう。
ならば、まだ痛みの感覚が残ってる間に苦しんでもらうのが得策かもしれない…
夏菜はカメラを仕掛けた天井を一度見上げる。
ーしっかり撮れてあの子のもとに届いてるかしら…
夏菜は手に持っていた包丁を握りなおす。
「…でも残念ですわ。お父様…どうやら私達体の相性だけはよかったみたいで…
…ええ、本当にざんねん」
夏菜は可愛いくお父様に口づけをする
死の口づけを…
もう義父からはほとんど息が聞こえてこない
「じゃあ、お父様。最後に首を狙うのでいっぱい苦しんでくださいね」
お父様の体の上に跨った夏菜は両手で握った包丁をおもいっきり上にあげ
首にめがけて振り下ろす…
ミャー
それは突然だった。
夏菜の手に黒いかたまりが引っ掻いてきたのは
「いたい!なにするのよミサ!」
手の甲からは血が流れ、握っていた包丁は弾みでベットの下へと落ちてしまった。
夏菜を襲った飼い猫のミサは少し離れた位置で彼女を睨みつけこう喋った…。
なにするのよ?じゃないわよ…このバカ娘は!
「…?…ミサ?…………おばあちゃん」
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